EU諸国における社会支援雇用調査報告書 日本障害者協議会社会支援雇用研究会 はじめに 日本障害者協議会(JD)では、わが国の福祉工場を含む、授産施設、小規模作業所、就労移行支援事業所ならびに就労継続支援A型およびB型事業所などでの、 福祉的就労といわれる障害者の就労についての今後のあり方について検討するため、2008年に「社会支援雇用研究会」を立ち上げ、原則として毎月1回の割合で研究会を開催している。 (注)いまのところ「社会支援雇用」について研究会としての公式の定義はないが、「働くことを希望しながら適切な仕事に就くことが困難な障害者に対して、賃金補てんや人的支援を含む、 種々の社会的支援を提供することにより、ディーセント・ワーク(働き甲斐のある、人としての尊厳にふさわしい仕事)を提供すること」が、最大公約数的な定義といえる。 その一環として社会支援雇用分野で先行する欧州連合(EU)諸国における取組みから学ぶべく、2010年4月7日(水曜)〜14 日(水曜)デンマーク(調査担当者:岩田克彦)、 4月11日(日曜)〜17日(土曜)フランス、4月18日(日曜)〜21日(水曜)ベルギー、4月22日(木曜)〜29日(木曜)オランダ(調査担当者:上野博、須貝寿一、斎藤なを子、松井亮輔。 ただし、須貝寿一はベルギーまで、斎藤なを子はオランダの一部までを担当)を訪ね、関係機関や施設などを視察するとともに、関係者からヒアリング調査を行った。 フランス滞在中にアイスランドの火山噴火で、欧州のほとんどの空港が閉鎖されたため、一時は予定どおり調査を続行できるかどうか危惧されたが、噴火活動が小規模化したことや 現地関係者のご協力などによりほぼ予定どおりの日程で調査ができたことは、幸運だった。 本報告書は、その調査結果の概要をとりまとめたもので、主な構成はつぎのとおり。 第1部 視察先の概要 第2部 各国の社会支援雇用の実態と課題 第3部 視察メンバーの感想・意見 本報告書が、社会支援雇用についてわが国関係者の理解を深め、その実現の一助になることを心から期待したい。 なお、本調査を実施することができたのは、社団法人ゼンコロからの助成金がいただけたお陰であり、この紙面を借りて、深く感謝申し上げる次第である。 また、本報告書の発行に際しては、社会福祉法人山形県コロニー協会の多大なるご協力をいただいた。あわせて心より感謝申し上げる。 最後に、フランス、ベルギーおよびオランダでの有意義な調査ができたのは、各国関係者から全面的なご協力が得られたことにもよるが、 なによりもきわめて的確かつ適切な通訳をしていただいたフランス在住の小野正さん、およびオランダ在住の山田美弥子さんのお陰であり、お二人にも厚くお礼申し上げたい。 また、デンマークでの調査については、デンマーク在住の千葉忠夫日欧文化交流学院院長はじめ、日本、デンマークの多くの方からご協力をいただいた。あわせてお礼申し上げたい。 2010年11月 日本障害者協議会社会支援雇用研究会 代表 松井亮輔 EU諸国における社会支援雇用調査報告書 目次 第1部 視察先の概要 1.各国の視察先 (1)フランス…P1 (2)ベルギー…P9 (3)オランダ…P10 (4)デンマーク…P17 (5)ドイツ…P20 2.欧州行政機関・欧州NGO (1)欧州委員会(EC)雇用・社会問題・機会均等局障害者統合ユニット…P26 (2)欧州障害フォーラム(EDF)…P27 (3)欧州障害者サービス事業者協会(EASPD)…P28 (4)ワーカビリティ・ヨーロッパ(WE)…P29 第2部 各国の社会支援雇用の実態と課題 1.理念・経緯・現在の法制度 (1)フランス…P31 (2)オランダ…P33 (3)デンマーク…P35 (4)ドイツ…P41 2.対象者・認定システム (1)フランス…P42 (2)オランダ…P43 (3)デンマーク…P45 (4)ドイツ…P47 3.就労所得(賃金補てんを含む)・所得保障制度 (1)フランス…P49 (2)オランダ…P51 (3)デンマーク…P54 (4)ドイツ…P57 4.一般雇用への移行支援 (1)フランス…P58 (2)オランダ…P58 (3)デンマーク…P59 (4)ドイツ…P60 5.社会支援雇用対象者などの具体的状況(インタビューより) (1)オランダ…P63 (2)デンマーク…P64 第3部 視察メンバーの感想・意見 EU諸国(フランス、オランダなど)における社会支援雇用制度などの動向…松井 亮輔…P67 底流にある連帯の思想…上野 博…P68 デンマークから学ぶべきこと…岩田 克彦…P71 <参考資料> 1.国内関係資料一覧…P72 2.国際関係資料および視察先などで入手した関係資料一覧…P72 3.ヨーロッパ社会支援雇用調査団日程表…P75 4.事前学習会開催状況…P77 5.調査団員名簿…P77 6.社会支援雇用研究会名簿…P78 第1部 視察先の概要 1.各国の視察先 (1)フランス (A)LA RENCONTRE(出会い) 〔面会者〕Mr. Georges Aitken(理事長)Ms. Francoise Allouche(事務局長) 〔概要〕 1963年に知的障害者の家族が設立した。設立当時は近隣住民の激しい反対運動があった。知的障害者の親と家族の全国協会(UNAPEI)の会員であり、 知的障害者、精神障害者、重複障害者、社会的不利のある人たちに生活支援、および就労支援サービスを提供している。理事長は無給のボランティアで、 本職は皮膚科医である。40歳になる息子さんがここのESAT(労働支援機関・サービス、日本の就労継続支援事業所や作業所に類似している)で働いている。 本部事務局には、事務局長を含む常勤職員3人と非常勤職員が1人勤務している。職員の給料は、国と県からの補助金と事業収入で賄っている。 以下の事業を行なっている。 ・保育所 ・医療教育センター ・ESAT ・グループホーム ・生活支援センター ・デイケアセンター ・地域障害者調整センター サービスを提供している障害者等の数は約350人で、県障害者センター(MDPH)の判定を受けて各サービスを利用する。以前は子どもと成人の利用手続きが別であったが、2005年に改正された、 「障害者の権利と機会の平等、参加、市民権に関する法律」(2005年法)によりMDPHに統合され、サービスが使いやすくなった。この事業所の所在するイブリーヌ県では、MDPHの分室が9ヵ所ある。 〔グループホーム〕 周辺に4ヵ所あり、それぞれ10人ぐらいが入居している。基本は17平米の個室だが、35平米の部屋もあり、現在2組の夫婦が利用している。20歳から60歳まで利用可能で、60歳になると原則退去となる。 現在、60歳以上の継続利用を求めて行政と交渉を行っている。利用者は近隣の人が多く、以前は、休日にはほとんど実家に帰ったが、現在は、グループホームで過ごす人が多くなり、 スポーツや観劇等の休日用プログラムも用意している。最近は、特に大きなトラブルはなくなった。問題は、ESATの利用者のみがグループホームに入居可能ということで、ESAT退職の場合はグループホームも退去しなければならない。 〔デイケアセンター〕 仕事をすることに適さない人、在宅の人、医療教育センターを出たが活動の場がない人等が利用している。1日の利用者数は約15人で、送迎はなく全員自主的に通っている。精神科医1名と4名のスタッフが常勤し、 料理、買物、ダンス、エステ等のプログラムを提供している。同敷地内にあるESATの利用者も、ストレス軽減のためにデイケアセンターを利用している。法律により規定された利用者委員会があり、親の代表も含め、 よりよいサービスの提供を目指し年間3回会議を行っている。 〔ESAT〕 敷地内にある作業スペースが手狭になったため、(B)に述べる場所と2ヶ所で作業活動を行っている。2ヶ所で150人の利用者であるが、ここでは26人の利用者と3人の指導員が働いている。 主な仕事はランドリーで、周辺の老人ホーム、保育所、一般家庭から受注している。また、フランス赤十字社との契約で、人工呼吸体験用のマスクの洗浄も行っている。 〔医療教育センター〕 14歳〜20歳までの普通校に通学できない障害のある人に、特別支援教育を提供する。知的障害児・者が多い。2009年に法律で設置された、普通校と特別支援学校の中間的機能を持つ学校。教育に重点を置いているが、 知的障害児に対する必要な医療行為も提供する。特別支援教員のほかに、言語療法士や看護師が常勤する。 障害のある子どもの進路は、普通校か、普通校と特別支援学校の併用か、または特別支援学校かは、MDPHが判定する。イブリーヌ県には、43の医療教育センターがある。この学校の生徒数は36人、職員数は22人であり、授業料、食費は無料である。 卒業後の進路については、18歳になると、まず本人、親、教員で事前評価を行なう。この評価に基づき、MDPHが一般雇用、EA(適応企業・障害者多数雇用事業所)、ESAT、またはデイケアセンター等の判定を行なう。 EA、ESAT、デイケアセンターが多く、一般企業へ就職する人は少ない。 なお、2005年法によりすべての障害者は普通校に登録し、その後必要な場合は、特別支援教育を考える。 (B)ESAT Jean Pierrat 〔面会者〕Ms. Francoise Delpech(所長) 〔概要〕 La Rencontreが経営するESAT。ESATは医療・社会福祉機関で、社会福祉・家族法典に依拠する。作業活動を提供しながら、医療、福祉、教育支援も行なう。 ESATの利用者は労働者とはみなされず、労働法の適用はないが、年次有給休暇、出産休暇、育児休暇、介護休暇が保障され、また労働安全衛生法は適用される。 当ESATの利用者は153人で、大半が知的障害者である。職員は27人で、所長、作業指導員、物流担当者、精神科医、ソーシャルワーカー、言語療法士、事務員等から構成される。 作業指導員はほとんどが一般企業経験者で、社会福祉の専門家はあまりいない。精神科医の配置は、義務づけられていない。作業以外の趣味的な活動は、ダンス、絵画、陶芸、パソコン、読書会等がある。 仕事内容は企業からの下請けが多く、医薬品のセット、化粧品セット、バインダー組み立て等を行っている。作業収入は年間約66万ユーロ(2009年)で、 前年に比べ受注は減少している。フランスでは民間企業や官公庁に6%の障害者雇用率が課せられているが、ESAT等への仕事の発注も一定の雇用と見なし、カウントされる。 当ESATでも、この方法を活用した仕事の受注が多い。このほか、周辺地域の会社や一般家庭での芝刈りや園芸作業も請け負っている。 一般雇用への移行を担当する就職支援職員が、一般企業やEAへの就職を促進しているが、年間の移行者数は1人か2人で、極めて低率である。理由は、利用者本人がESATに残ることを希望していること、企業が採用に積極的ではないとのことだが、当ESAT全体として、一般雇用への移行を強く進めている雰囲気はあまりない。 〔利用者の収入モデル〕 ESATの利用者には保障報酬という名目の賃金が支払われ、額は最低賃金の55%〜110%が保障される。ESATの支払い分は賃金の5%〜20%で、国の賃金補てん分は最大50%までである。 この賃金収入とAAHという成人障害者手当も含めた収入の合計が、最低賃金以上にならなければならない。利用者には年間5週間の有給休暇が付与され、利用者はそのほとんどすべてを消化する。 賃金補てんとは別に、ESATには運営費補助として年間160万ユーロが国から補助される。しかし、土地や建物、機械購入に対する補助はなく、当ESATでは現在も土地、建物のローンを返済中である。 (C)パリMDPH(県障害者センター)75・CDAPH(障害者権利・自立委員会)  〔面会者〕Ms. Marie-Noelle Villedieu(所長)Ms. Emmanuelle Faure(成人権利部門責任者)Ms. Sylvia Baudoin(広報担当者) 〔概要〕 パリ全体をカバーし、来所者は1日140人ぐらいで、このほか電話による問合せが1日500件ある。対象者は、身体障害者、知的障害者、精神障害者など。 主な仕事は、障害の認定、障害程度の判定による障害給付や障害補償手当の支給決定、および一般雇用、EA、ESAT等の職業進路を決定する。 CDAPHの判定に基づき、年間約4,500人の職業進路を決定する。MDPHでは、30人ぐらいの医師、心理士、民生委員等の多分野専門家チームが評価を行っている。 MDPH・CDAPHについては、第2部対象者と認定システムに詳述する。  (D)Agefiph(障害者職業参入基金) 〔面会者〕Mr. Thibault Lambert(テクニカル・カウンセラー) 〔概要〕 1987年に設立された、障害者雇用を促進する独立行政法人。目的は、障害者の職業能力を開発すること、障害者の雇用機会を改善すること、障害者の採用および雇用の維持 に関して事業主を支援すること、等である。主な業務は、障害者雇用率に満たない企業から納付金を徴収し、障害者雇用機会拡大のための再配分を行っている。 理事会は、労働組合、事業主、障害者団体の代表、および国の任命者で構成され、すべての意思決定を行う。 全国に地方組織を持ち、職員数は約300人で、この内障害者は約20%である。パリ本部の職員数は、80人である。 〔フランスの障害者雇用〕 1987年の障害者雇用法により20人以上の企業に6%の雇用率が、義務化された。この法律により、Agefiphが設立された。 2005年法により障害者雇用のさらなる強化が規定され、公的部門への雇用を促進する政府基金(FIPFP)の設立に加え、雇用へのアクセス強化、ワンストップセンターの設置により 身近な場所で使いやすいサービスの提供等の改善が行われた。2005年法はさらに、2000年のEU雇用均等枠組指令に従って、 適切な措置(障害者権利条約の合理的配慮に相当するもの)概念の導入による雇用のすべての場面における差別禁止を強化した。 障害者雇用の対象者は、戦争で障害を負った軍人年金の受給者、労災事故者、障害年金受給者、CDAPHにより障害労働者の認定を受けた者、障害者手帳の保持者、およびAAH(成人障害者手当)受給者である。 雇用率の達成方法は、直接雇用のほかに、EAやESAT等障害者が多数働く事業所への仕事の発注(ただし、雇用率の50%以下)、職場への実習生の受け入れ(従業員数の2%まで)、行政に承認された労働協約の締結、そして納付金の支払いによる。納付金の総額は2005年に426百万ユーロであったが、2006年は606百万ユーロ、2007年592百万ユーロと大きく増加した。これは2005年法の施行により雇用率除外職種の廃止、 ダブルカウント等重複カウントの廃止等により雇用者数の算定方法が変更されたことも一因となっている。2007年の実雇用率は2.4%である。 障害者雇用の特徴としては、雇用障害者の77%が40歳以上であること、同64%は男性であること、同52%は非熟練労働に従事していること、同24%はパートタイム雇用であること、等が挙げられる。また、近年の金融不況により第2次産業に空洞化現象が起こり、障害者の職が脅かされている。 (E)FEGAPEI(全国障害者サービス事業者連合) 〔面会者〕Mr. Francois Kuentz(EU担当部長)Mr. Jean Sancho(理事) 〔概要〕 1964年に「知的障害者の親と支援者の全国組合(SNAPEI)」を設立したが、2005年に「全国障害者サービス事業者連合(FEGAPEI)」に改称した。団体会員数は470で、12万人の職員が約20万人の障害者にサービス提供している。 〔EA(適応企業)〕 以前のAP(保護作業所)であるが、2005年法により一般労働市場の企業として規定された。生産ラインに従事する従業員の80%以上は障害者でなければならない。CDAPHで判定を受け、それぞれの能力に適応した労働条件で就労する。通常の企業なので、労働者にはすべて労働法が完全適用される。2005年法により障害者の採用に関しては、県の労働局の認定が必要であり、採用より3年間は解雇できない。 給料は最低賃金以上が保障され、フルタイム労働者には、最低賃金の80%が国から補てんされる。ただし、すべての障害従業員が賃金補てんされるわけではなく、事業所と県の協議により補てんされる従業員数が決まる。パートタイム労働者への賃金補てんは、労働時間によって決定される。このほかに、障害者1人につき年額900ユーロの定額補助金、また、必要に応じて機械設備の更新や一般労働市場への移行に対する補助金もある。 一般企業への移行を促進するために、一度企業に就職した者がEAでの再雇用を希望した場合、EA退職後の1年間は優先的に雇用される。 〔ESAT(労働支援機関・サービス)〕 2005年法により、旧CAT(障害者労働支援センター)が改称された。社会福祉・家族法典に依る医療・福祉機関で、職業活動に加えて、医療、福祉、教育サービスも提供する。全国に約1,400ヵ所のESATがあり、約12万人が利用している。障害別内訳は、知的障害者73%、精神障害者17%、肢体不自由者4%、その他6%と圧倒的に知的障害者が多い。 ESATの障害者が従事する仕事は、下請け作業が最も多く、全体の50%であり、サービス32%、自主生産18%と続く。自主生産で最も多いのは農業生産で、全体の38%を占める。サービス分野では、メンテナンス、造園、ランドリー、清掃等が多い。2009年の全ESATの売上高は、10億3百万ユーロであり、利益は523百万ユーロであった。 (F)APY(適応企業イブリーヌ) 〔面会者〕Ms. Patricia Prevost(社長) 〔概要〕 第2部社会支援雇用の実態、1.理念、経緯、法制度で詳述する。 (G)APF(フランス身体障害者協会) 〔面会者〕Ms. Pascual(会長補佐)Ms. Veronique Bustreel(雇用担当)Ms. Philippe Miet(家族・国際関係担当) 〔概要〕 1933年に設立。APFの求めるものは、あらゆる差別と闘い、基本的な権利を勝ち取ること、ライフスタイルを自由に選択すること、必要な介助にいつでもアクセスできること、教育や職業訓練を自由に選択できること、自由に職業キャリアを積めること、である。 会員は全国に約3万人いて、障害者、家族、支援者、ボランティア等である。およそ各県に1支部(97支部)あり、地域組織を形成している。96の医療・教育センター、155のグループホームやデイケアセンター、57のEA、ESATを設置・運営している。 全国障害者団体ネットワークであるCFHE(フランス障害者協議会)の会員であり、APFから会長を出している。CFHEには50団体が加盟し、EDF(欧州障害フォーラム)に加盟している。 〔障害者権利条約についての見解〕 フランスは2010年2月に批准したが、遅すぎたと感じている。国内法の整備に時間がかかった。2005年の法改正で権利条約の水準に近づいていたが、障害者団体側は不足を主張した。 モニタリング機関はまだ設置されていない。フランス人権委員会が対応窓口となっていて、CFHEが委員会に参加している。 〔障害者雇用についての見解〕 EAやESATから一般雇用への移行率が年間1%と極めて低いが、この状況は権利条約の要請に合致しないのではないかとの質問に対し、フランスは保護的就労の歴史が長く、これまでは労働条件等より働く場作りが優先されてきた。これからは、個人の希望や能力に見合った職場を用意することが必要だと思う。 雇用率6%、実雇用率2.4%の現実をどう考えるかとの質問に対し、本来もっと雇用が進まなければならないが、政治や経済界が積極的ではなく、法律が遵守されていない。2005年法により制度が強化されたはずだが、現実はなかなか変わらない。雇用状況の改善を求めて、あきらめずに政府に訴えていきたい。 〔交通アクセスについての見解〕 交通アクセスの整備は遅れている。パリでも市民の足である地下鉄にはエレベータのある駅が極めて少なく、移動障害者はほとんど利用できない。路線バスは、85%が低床でスロープも付いているので使いやすい。2005年法により10年間で改善が義務づけられている。APFの運動でも重点課題である。 (H)Pole Emploi(全国雇用センター)、Cap Emploi(障害者雇用センター) 〔面会者〕Mr. Federic-Paul Martin(国際業務部チーフ)Ms. Martine Dauvernet(国際業務部)Mr. Laurent Eliaszewicz(国際業務部)Ms. Etienne De La Bigne(障害者担当) 〔概要〕 Pole Emploi(PE)は、それまでのANPE(全国雇用機関)とUNEDIC(全国商工業組合)が2009年に合併した機関である。PEの主な業務内容は、失業者の登録、社会保険給付、職業紹介、事業主への求人支援等である。また、雇用において年齢、人種、宗教、障害の有無等により差別がないように監視も行っている。 形態は独立行政法人で、理事会は使用者団体、労働者団体、地方自治体代表および労働専門家等の理事で構成されている。全国に1,000ヵ所のPEがあり、約5万人の職員がいる。このうち障害者は2,000人で、大多数は肢体不自由者、視覚障害者、聴覚障害者であり、知的障害者、精神障害者の採用はない。 Cap Emploi(CE)は、2005年法により設置された機関で、障害者の求職登録、職業紹介、事業主への障害者雇用支援を行う。全国に107ヵ所あり、2,000人の職員がいる。現在7万人の障害者がCEに求職登録している。MDPHやAgefiphと連携し業務を行っている。 (2)ベルギー (A)保護雇用事業所DYMKA 〔面会者〕Mr. Jean Artois(所長) 〔概要〕 1972年に政治家と障害者の親の会の働きかけにより設立した。就労者は195人。障害者の内訳は、知的障害者、精神障害者、社会的不利のある人が中心で、身体障害者はほとんど一般就労しているためいない。大多数は軽度の人で、重度障害の人はいない。 仕事の種類は、販売促進用のビールの箱詰め、化粧品のサンプルづくり、ダイレクトメール、製本作業等。1994年に、自己資金300万ユーロで土地、建物を購入し、現在の場所に移転した。 運営費の40%は国の補助金で、障害者の賃金を補てんする。補助金は、月額15万〜18万ユーロ支給される。残りの60%は事業収入による。売上は月額20万ユーロであるが、毎月ほぼ同額の支出があり、利益は出ていない。障害者の給料は最低賃金が適用され、月額1,600〜1,700ユーロで、手取り収入は約1,100ユーロである。これは、一般労働市場の非熟練労働者と同じ水準である。障害者の就労先として、一般雇用か保護雇用かは行政の判定機関が決める。この事業所では、就労移行支援は積極的にはやっていない。週の労働時間は38時間である。 (3)オランダ (A)社会雇用事業所DZB 〔面会者〕drs. R. J. van Rijn(事務局長) 〔概要〕 ライデン市立の社会雇用事業所で、職員は公務員。現在の所長は、1年前まではKLMオランダ航空の管理職。ライデン市ほか3市と契約し、利用者を受入れている。雇用契約(CAO)を結ぶ就労者は1,300人で、職員数は100人。このほか600人の長期失業者、薬物およびアルコール依存症の人、刑務所での服役経験者等が就労している。この人たちへの就職支援期間は6ヶ月〜1年間で、就職率は35%である。 〔仕事の種類・収入〕 仕事内容は、チョコレート製造、菓子包装、メール便、受付業務、清掃業務、ケータリング、警備業務等である。 2009年の収入は、国の補助金が2,700万ユーロ、ライデン市の補助金が140万ユーロ、売上が1,160万ユーロ(全体の29%)であった。支出は、障害者および長期失業者等の賃金が2,700万ユーロで、職員人件費等の一般支出が1,100万ユーロであった。 赤字の場合、国やライデン市から補てんがある。経営評価指標は、a.事業所外就労への移行率、b.長期失業者(社会保険受給者)の就職率、c.待機者数の減少、d.予算内での経営(赤字を出さない)、e.地域住民の評価、等である。 〔仕事の形態〕 UWV(被用者保険運営・就労事業機関)にて社会雇用事業所での就労決定を受けた者は、6週間のインテーク期間があり、この期間に生活面、就労面の評価を行う。「仕事への梯子」という5段階の就労形態があり、就労能力によりこの段階を往復する。 1.テスト・評価 2.事業所内就労 3.事業所外グループ就労 4.事業所外個別就労 5.一般就労 〔今後の目標〕 2013年までの事業目標は、現在32%を占める障害者と長期失業者等の事業所外就労を45%までに引き上げること、なるべく小グループでの就労形態を促進すること、現在企業から下請け受注している仕事も、将来は発注企業に障害者を派遣して仕事する方向に持っていくこと、市の補助金を5%削減すること、現在の支出(約4,000万ユーロ)を4年間で4%削減することである。 (B)サラ(Sara)財団 〔面会者〕Mr. Gertjan van Dam(マネージャー) 〔概要〕 1960年代クラップワイク医師が身体障害者の居住施設の必要性を提唱。テレビのチャリティ番組で募金を呼びかけ、「障害者居住村」(ヘット・ドルプ)が完成した。母体はシゾ(Sizo)財団で、ヘルダランド州を中心に70ヵ所の居住施設を持つ。居住する障害者は2,500人で、職員数も2,500人である。当初居住する障害者はほとんどが身体障害者であったが、現在は知的障害者、発達障害者、精神障害者が多く、身体障害者も50%以上は重度の重複障害を持つ。大部分が特殊健康保険(AWBZ)の受給者である。 脱施設化の流れとともに、中軽度の身体障害者の多くは、この住宅を出て周辺アパートに転居した。空室になった住宅は、地域の若年層や高齢者に販売している。また、住宅ディベロッパーに一部の土地を売却し、一般住宅を誘致している。このように、現在は地域住民との接点が増えてきている。しかし、重度障害者のための設備等は確保している。 〔サラ財団〕 シゾ財団の中でも就労支援に力を入れている財団で、利用者数は500人、スタッフは80人。利用者のうち250人は事業所外で就労し、賃金も得ている。この内50人は一般就労で、200人はジョブコーチの支援を受ける援助付き雇用の形態で働いている。残る250人は事業所内就労であるが、職業訓練と位置付けられていることから賃金は出ない。作業は、ケーキ作りや自転車修理である。 利用者は義務教育修了後UWVに登録し、職業判定を受ける。就労能力が低い人は社会雇用事業所に行くが、就労困難の場合はAWBZが支給され、たとえばこの財団を利用し、居住面でのサポートを受ける。中央ケア審査会(CIZ)によりAWBZの支給内容が決められ、必要なケアが提供される。 母体のシゾ財団全体では大部分がAWBZ受給者だが、サラ財団単独ではAWBZ受給者が3分の2で、残り3分の1はUWVに登録する就労可能者である。サラ財団の年間収入は300万ユーロ、内AWBZの収入が200万ユーロ、事業収入が100万ユーロで、支出の80%は人件費である。 (C)社会雇用事業所プレシックハーフ(Presikhaaf) 〔面会者〕Ms. Joan van Poelje(所長)Mr. Hubert Keller(事業部長)Mr. Wim Kruyswijk(広報アドバイザー) 〔概要〕 1936年設立。周辺11市町村と契約し、障害者2,700人、長期失業者等1,500人が就労している。職員は300人。一般就労に結びつきにくい人を、労働市場に統合することを目的とする。作業性を求めるため、AWBZ受給者は対象外。国からの補助金は、フルタイム(週36時間)の障害者1人に付き年額27,000ユーロで、賃金補てん以外の補助はない。このほか自治体から年額180万ユーロの補助金を受けているが、事業収入が増えると自治体の補助金は削減される。 〔就労の形態・種類〕 全体の3分の1が事業所内就労、3分の1が事業所外就労、3分の1がジョブコーチ付き就労。仕事の種類は以下のとおり。 a.製造部門 1,000人が従事。机、いす、アルバム、かばん、水道メーター、印刷、包装、メール便 b.グリーン&サービス部門 緑地管理、清掃、レストラン c.園芸センター d.事業所内職業訓練 2005年に開始19コースがある。訓練を受けた者1人に付き年額200ユーロが国から事業所に支給される 長期失業者等1,500人の67%が事業所内就労で、33%は事業所外就労。市との有期契約で、終了後は市が就職支援などを行う。彼らは最低賃金で働き、最賃の70%は国から、30%は市から支給される。 11市から緑地管理の仕事を受注しているが、最近は社会雇用事業所間の競争も激しくなり、他市の事業所に仕事を取られたこともある。 〔園芸センター〕 当事業所の主力部門。障害者270人、スタッフ15人が従事。敷地は屋内3.5ヘクタール、屋外10.5ヘクタール。温室の鉢栽培で、販路は50%が競り市場、50%が卸売り、将来は直販したい。オダマキ、フロックス、シクラメンも栽培し、全国品評会で毎年上位入賞する。仲介商社を通してドイツやフランスにも輸出している。年間販売高は、420万ユーロ。当部門の事業方針は以下のとおり。 a.広報努力を徹底する b.事業所内外の人と協同する c.豊富な人的資源を十分活用する d.年間を通じて変動のない販売高を目指す e.市場の求めるものを出荷する f.技術革新を怠らない 〔2010年の目標〕 a.事業所外就労を増やす b.マネージメントを強化する c.就労者に合った仕事を用意する d.品質を強化する e.販路開拓し売上を増やす (D)オランダ慢性疾病・障害者協議会(CG-Raad) 〔面会者〕Mr. Ad Poppelaars(事務局長)Mr. Quirijn van Woerdekom 〔概要〕 2000年に患者団体、障害者団体が合流し全国組織となった。175団体が加盟し、約60%が患者団体、40%が障害者団体。本部職員数は100人、内3分の1は患者・障害者当事者であり、25人は在宅勤務をしている。理事は7人で、全員が当事者である。年6回理事会を開催する。収入は、会費10%、国の補助金80%、寄付金10%で、国の補助金が圧倒的に多い。2010年の予算額は600万ユーロであり、補助金の内200万ユーロは運営費に対する補助、280万ユーロは地方自治体施策のモニタリング等、プロジェクトに対する補助である。 〔政府の労働政策についての評価〕 障害者の失業率が高い。政府は障害者の雇用を促進しているが、なかなか成果が上がらない。公共部門の雇用が進まないことが問題である。社会雇用制度はとても複雑であり、法律や制度をもっとわかりやすいものにする必要がある。 2006年に企業に対して障害者雇用調査を行なった。回答から、経営者や人事課は障害者雇用に積極的であるが、現場の中間管理層が消極的であることが判明した。理由は、障害者を雇用した経験がない、生産性を維持するうえで負担となる、というようなものであった。CG-Raadとしては、十分企業で働ける障害者がいることを知らせていきたい。特に精神障害者の雇用が遅れている。 雇用も含めてすべての政策に対して意見書を出し、国会議員とも定期的に会議を持ちロビー活動をしている。 〔デ・フリース報告書についての評価〕 社会雇用制度の問題を明確化させたことは評価できる。しかし、パイロット・プロジェクトは時間稼ぎであり、最低賃金以下の賃金を認めることは明らかに権利の後退で、不満である。この報告書により、さらに制度が複雑化することを懸念する。パイロット・プロジェクトのために生活を脅かされる人もでてきている。 〔国連障害者権利条約への対応〕 各省の連携が弱く、しっかりとした対応はなされていない。モニタリング機関も未設置であり、現在設置に向けて協議している。 (E)社会雇用事業所(WNK BEDRIJVEN) 〔面会者〕Ms. Monique de Langen(マネージャー)Ms. Martina Dudink−van Bakel(ソーシャルワーカー) 〔概要〕 1970年設立。アルクマール市他7市と契約。就労者1,000人の内職員は100人、750人が事業所内で就労し、250人は事業所外で働く。このほかに長期失業者等が700人就労し、待機者は280人いる。就労者1,000人の内500人はWajong給付対象の若年障害者であり、このことがこの事業所の特徴になっている。 Wajongの対象となる若年障害者とは、17歳の誕生日に25%以上の障害を有して就労不能である若者か、17歳以上30歳未満で、障害を有する前年に半年間以上学生であった若者である。対象者は週の内20時間就労し、賃金が支給される。残りの時間はWajong給付を受ける。 以前は事業所内の仕事ばかりであったが、2003年以降事業所外就労、一般就労支援が多くなってきた。作業内容は、包装、グリーン管理、清掃、コピー業務、メール便等である。 〔ビジネスポスト〕 WNKの主たる作業のひとつは郵便事業(ビジネスメール便)で、210人が従事している。オランダでは、官公庁のビジネスメールの48%を全国42の社会雇用事業所が受注している。 2009年の売上は180万ユーロで、2010年は200万ユーロを目標としている。他のビジネスメール企業からは優遇扱いとの批判もある。 〔Wajong対象者のためのプロジェクト〕 以前はWajongの対象者である若年障害者は、働いても、働かなくても給付を受けられたが、法改正で2010年1月1日より給付対象者は、UWVにて就労適性を評価し、可能な人には就労を求めるようになった。WNKは、若年障害者の中小企業での就職支援を行うプロジェクトを実施し、国から奨励金として就職者1人に付き2,500ユーロのバウチャーを受け取っている。年間1,000人分のバウチャーが用意されており、成果が上がれば2011年以降も継続される。このように、以前は給付のみで生活していた若年障害者の労働参加が進められている。 〔今後の方針〕 WNKの売上で最も大きいものは、業務受注先の企業で事業所外就労に従事する障害者に対する企業からの労賃収入であるが、今後益々事業所内就労より事業所外就労の比重を増やす方針である。このため事業所内職場スペースはあまり必要なくなってくるため、現在自己所有している土地、建物を売却し、それをリースに切り替えることを考えている。 (F)社会雇用事業所パスワーク(PASWERK) 〔面会者〕drs. J. R. Coops(再就職マネージャー)Mr. Rob Wieleman(広報マネージャー) 〔概要〕 1970年設立。6都市と契約しているが就労者数、補助金ともハーレム市が全体の80%を占める。就労者1,600人の内、障害者1,000人、長期失業者等450人、職員150人。障害のある就労者は、以前は身体障害者が多かったが、現在は知的障害者、精神障害者が60〜70%を占める。「学び、仕事に就く」をモットーとしている。 〔事業種類と収入〕 包装、メール便、園芸、印刷、縫製、金属加工等多種類の作業を行なっている。ハーレムは昔から布織物の産地で、この織物をふとんカバー、エプロンに加工している。また、金属加工部門では、信号機、道路標識等をつくっている。事業は大きく3部門に分かれている。第1は、事業所内の製造部門での印刷、包装作業等である。第2は、サービス部門で、園芸、清掃、ケータリング業務を請け負う。第3は、リハビリテーション部門で、再就職やジョブコーチ付き就労支援を行っている。この部門の職員は55人で、内ジョブコーチは12人いる。 2010年収入は5,000万ユーロで、内訳は、障害者に対する国、市からの補助金が3,000万ユーロ、製造部門収入500万ユーロ、サービス部門収入660万ユーロ、リハビリテーション部門収入が650万ユーロである。 〔就職支援〕 パスワーク内にUWVに登録した障害者の就職支援部門があり、数台の端末が置かれUWVの求人情報を検索できる。また、食堂の壁には大画面のモニターが設置され、UWVの求人情報や外部就労情報が流され、希望者は申し出る。この情報は1日3回更新されている。パスワークからの一般就職者は年間150人程度で、その多くは長期失業者である。しかし、その内50人ぐらいは仕事に定着できずに戻ってくる。 〔高額医療費補償法に基づくケア給付対象者(AWBZ)の受け入れ〕 パスワーク内には、AWBZ支援部門がある。AWBZの対象は被保険者でケアの必要な人であり、中央ケア審査会(CIZ)が対象者を審査する。ケアの給付は、自然ケア(ケアを提供する事業所に補助する方法で、対象者の95%はこの方式を選択している)とパーソナル・バジェット(PGB、障害者に直接給付する方式で、対象者の5%が選択している)のどちらかを選択する。PGBの額は1時間当たり17〜35ユーロ。 パスワークでは、AWBZの受入れ目標は年間25人程度としている。その目的は、ケアから就労への移行支援であり、本人の状況やニーズに応じて、1日2時間程度の就労プログラムを週2〜3回から始め徐々に増やしていく。 また、パスワークでは、国外からの移民に対してオランダ語学習を行なっており、この費用は各市が負担している。数ヶ月間の受講後に修了証書が授与される。 〔ここ数年の変化〕 以前は、ほとんどの人が事業所内で働いていたが、ここ数年は事業所外就労が多くなった。事業所を利用する長期失業者等の内、薬物、借金、ホームレス等社会的問題を抱える人が多くなってきた。問題の複雑化に対して事業所内だけでの対応では困難になってきて、外部から多分野専門家による支援が必要になってきた。評価も以前は労働能力だけであったが、最近は住居、収入等生活全般を評価するようになった。 〔パイロット・プロジェクト〕 パスワークの実施するパイロット・プロジェクトは、a.アセスメントの充実、b.ケア人材の養成、c.地域のニーズに合った仕事の開発である。以前は、アセスメントは障害者に対してのみ行なっていたが、長期失業者等にも行うようになった。評価テストは、多分野の専門家が行う。パイロット・プロジェクトは、2010〜2012年まで行う。 (4)デンマーク (A)CLH(The Equal Opportunity Centre for Disabled Persons) 〔面会者〕 Ms. Ane Esbensen(デンマーク障害審議会及び障害者均等機会センター(CLH)事務局長)Ms. Pemille Steen Lenzner(事務局員) 〔概要〕 障害者審議会の機能、障害者政策の理念等の説明を受ける(第2部参照)。 (B)DH(デンマーク障害者団体連合) 〔面会者〕Mr. Poul Erik H. Petersen(事務局長(The secretarial director of DH )) 〔概要〕 DHの活動内容、障害者団体間の意見調整方法等の説明を受ける(第2部参照)。 (C)デンマーク障害者団体連合オーデンセ支部長宅 〔面会者〕Ms. Birthe Maling DH-Odense(デンマーク障害者団体連合オーデンセ支部長) 〔概要〕 障害は筋ジストロフィー。自宅を訪問。障害者に対する手厚い住宅対策、パーソナル・アシスタント制度を確認。 (D)Job center Nordfyn(ノルフィン・ジョブセンター) 〔面会者〕Mr. Adnan Said Dreymann(フレックス・ジョブ担当ジョブコンサルタント)(デンマーク在住の千葉忠夫日欧文化交流学院院長通訳) 〔概要〕 フレックス・ジョブの認定方法等を確認(第2部参照)。 (E)ボーゲンセの日欧文化交流学院(国民高等学校) 〔面会者〕千葉忠夫氏(理事長)フレックス・ジョブ就労者2名(T氏とSさん) 〔概要〕 T氏は、交通事故で中途障害脳疾患センターに通い、現在管理人。Sさんは、出産後に体調を崩し、現在、事務職(書類作成、電話番)。弾力的な就業環境を確認できた(千葉忠夫日欧文化交流学院院長通訳)。インタビューの詳細は後出。 (F)University of Roskilde(ロスキレ大) 〔面会者〕Professor Bent Greve, University of Roskilde(ロスキレ大教授) 〔概要〕 グリーヴ教授は、ANED ( 欧州障害問題学問的専門家ネットワーク:Academic Network of European Disability experts)がまとめた “The labour market situation of disabled people in European countries and implementation of employment policies”(2009.4)の筆者であり、また、“The Future of the Welfare State”,ASHGATE,2006の編者。フレックスジョブ等障害者施策への評価を聞く。 a デンマークは、“Mainstreaming of disability”を推進しているので、デンマークの統計では、障害〈者〉の情報を取れない。但し、障害年金、疾病給付、フレックス・ジョブ給付等の給付を伴う統計はある(住宅改造、生活支援の受給者数は取れない)。 b ジョブセンターでの障害者に対する専門的知識・技能の保持等、Mainstreaming化で、障害者の特別ニーズへの対応が疎かにならないか、注意が必要である。 c フレックス・ジョブの存在で、一般労働市場で同一条件での就労が進まない側面(使用者も障害者もフレックス・ジョブを選好しがち。)もあるが、一般職場での就労を促進する効果の方が大きい。 d フレックス・ジョブ的な制度はデンマーク以外でも導入可能。 (G)The Danish National Centre for Social Research(デンマーク社会調査研究センター:SFI) 〔面会者〕 Ms. Lisbeth Pedersen(雇用・社会統合研究部門長) 〔概要〕 SFIは、日本でいえば、労働政策研究研修機構と社会保障・人口問題研究所を一緒にしたような機関。デンマークには給付関係以外の公式障害統計がないようなので、研究機関の調査レポートが頼りと訪問。「デンマークの保護就労」等デンマーク語文献を多数入手。 (H)Bank−Mikelson財団  〔面会者〕千葉忠夫氏(理事長、日欧文化交流学院(国民高等学校)院長、『世界一幸福な国デンマークの暮らし方』(PHP新書、2009 著者)Mr. Frode Svendse(社会省事務次官補)Ms. Sytter Kristensen(LEV(知的障害者親の会)理事長)Mr. Hasse Jacobsen(精神障害者対策組織副理事長)Ms. Birgit Kirkebaek(元オスロ大学教授(バンクミケルソン研究者))Mr. Johan Hansen(元教育省障害児教育部長) 〔概要〕 千葉忠夫氏のご厚意で、理事会を傍聴した。故バンクミケルソンは、デンマークの行政官でノーマライゼーションの父と言われている。バンクミケルソンの考えを引き継ぎ、日本の障害者対策にもつながる事業をしようと、千葉忠夫氏が設立。本理事会では、ノーマライゼーションを超えた次の理念を打ち出すべきか否か等が議論されていた。 (I)LO(デンマーク労働組合連合) 〔面会者〕Mr. Christian Solyst(コンサルタント) 〔概要〕 a.フレクシキュリティ(労働市場の柔軟性・弾力性(フレクシビリティ)と雇用・生活保障(セキュリティ)の両立をめざす包括的な政策体系で、近年EUが推進し、デンマークとオランダがそのモデル国とされている。)の実現には、労使の関わり(日頃のち密な努力)が大きい。 b.経済回復の動きはあるが弱い。最近DI(デンマーク使用者連盟)とよく共同行動を取っている。フレクシキュリティは労組も今後とも堅持していきたい。 c.shop steward(職場での労働者代表)の役割、労働協約でのsocial clause等、障害者就労での労組の責任は重い。 (5)ドイツ (A)連邦社会労働省 〔面会者〕ペーター・モーゼット博士(課長) 〔政府のとる政策について〕 かつては特別な学校を終えたら、作業所というのがルートであったが、それを企業へ、というのが政策の基本的な方針である。政府としては、その企業への編入を促進するが、そこで生じた不利益を補てんする。ただ、一般企業にいけない障害者も多くいるため、作業所も今後も必要だと述べる。 〔作業所の障害者〕 作業所の障害者の所得保障は、基礎的保障であり、359ユーロとなっている。これに住宅分の保障がある。両親の元で暮らしている、一人で借りて住んでいる、共同で住んでいる等の事情によって、住宅分の保障額は異なる。これに労働の対価(工賃)が加わる。  〔政府の政策について〕 統合のための政策の目玉は、(A)統合のための専門サービス(Integrationsfachdienst)、(B)統合のための企業である。一般労働市場で失業率が高いのに、障害者については失業率が高くはなっていないといえる。これは、(A)と(B)の政策の効果であると述べていた。 市場へというのは正しい考えだと思う。しかし、保護に値する人はいるので、作業所は必要である。障害者の親は、作業所では年金が作業所なら高い年金が保障されるから、作業所にとどまりなさいと子供に諭す傾向がある。 〔給付減少〕 給付減少分の補てんの制度があり、企業、統合企業を問わず州から支給される。しかし、数年間だけに当該給付が制限されているため、時間的に制限されている分批判にさらされている。今後どうなるかわからないという。また、なぜ、また、統合のための企業のみ様々なメリットを受けられるのか、という議論もあると指摘する。 〔ドイツの立法過程〕 聴聞(Anhorung)の手続が2回ある。一回目の聴聞では、諸団体(使用者団体、組合障害者団体、教会など)に聴聞する。法律の改正案ではなく、テキストのレベルで渡している。同様に、二回目の聴聞を行なう。その後、大臣を経て、連邦参議院、連邦議会で審議される。専門委員会、審議会はまず開かれない。年金で開かれたというのを聞いたことがある、という程度であるという。 (B)統合局 〔面会者〕ロージータ・シュレムバッハ氏 yt他2名 〔概要〕 統合のためのプロジェクトのうち、統合のための企業について説明があった。ヘッセンでは2企業が破産した。起業の際に統合局がチェックする。チューリンゲンで同じような企業があったので、統合のための企業の起業を統合局がやめさせたという事例があった。しかし、ヴュッテンブルク州のように、調整金不足のために起業させないという事例はない。 現在は経済危機のため、企業に注文が減少している。10年前からコストを考慮した経営が行われるようになった。 学校から連邦雇用エイジェンシーを通じて作業所へ障害者を送り、「早すぎる職業」という批判がある。つまり、一般労働市場への職業紹介をしないことにより、失業率をそれによって下げられる、というものだ。 市場へというのは正しい考えだと思う。しかし、保護に値する人はいるので、作業所は必要である(モーゼット博士と同じ説明)。 作業所の状況について説明があった。現在は、作業所やリハは独占になっている(例えば、教会、ロータリーなど)。障害者の親は、作業所では失業もなく、年金が作業所なら高い年金が保障されるから、作業所にとどまりなさいという傾向がある。 編入手当は、共同の住居、作業所に用いられる。予算は約200億円。編入手当は高いという批判があり、変革されるだろう。 デイアクティビティセンターには、ヘッセン州では約1,000人が入っている。 (C)カッセル市 〔面会者〕ゲーハルト・ハーブッシュ氏 〔概要〕 障害者の基礎保障にはカッセル市では、700億ユーロ支出している。そのうち1,400万ユーロが住居のために支出されている。基礎保障は、359ユーロである。これに加えて、障害者は住居分で加算して支給される(年金分などは控除される)。豊かな暮らしは決してできないが、十分生活はできるレベルであると市の担当者として説明していた。ほかに、障害者加算がある。 電気・ガス分などの支給はない。但し、テレビやラジオについて支払い免除(Befreiung)はある。介護保険では足りないため、市から介護手当が支給される。生活保護とは別の基準。 (D)マインツ市重度障害者代表 〔面会者〕マンフレッド・レーマン氏 〔概要〕 マインツ市の公務員の重度障害者代表を務め、9年の代表経験がある。前歴は公務員の職員代表をしていた。市には200人近くの障害者が雇用されている。 〔業務の内容〕 疾病に基づく解雇の場合には、他の代替のポストはないか等検証すべき点を指摘する。解雇の場合に統合局の承認必要であるが、しかし、承認がないのに解雇する使用者もいる。その点も検証する。解雇事例はマインツ市では1件、6,7年前にはあったという。 疾病については、法律上、賃金の継続支払いが使用者には義務づけられている(6週賃金の100%)、その後については、22週疾病金庫から60%支給されている。近時、精神障害が増加している。 使用者には産業医がついており、うつなどの場合、職場への復帰は、医師からチェックされ、マインツ市では、2週、4週の単位で段階的に職場復帰できる。 このほかに、健康のための助言制度というのがあり、二人の心理士がつく(マインツ市のみ)。助言などが業務。自殺願望の強い人をレインマンさんがそこに送り、助言の後、いまは職場復帰している。 2002年より、職場への組み入れのためのマネージメント(Eingliederungsmanagement)の協定を市と結んでいる。疾病について代表と使用者が協議する。そう簡単には解雇させない(解雇が簡単になるのではと危惧した)。 いままでの合意の実例 −6,7週休暇させるよう合意 いまは健康に −シフト労働(7種のシフト)をして不健康になった者につき労働時間を変えさせた −職種が合わなかったとの労働者に申し出に対して、他の職場に配置換えをさせた 市の場合、40%近くはパート労働となっており、これについてはあまり代表は関与しないが、関与するのは、例えば、両親休暇(Elternurlaub)と呼ばれる育児の場合の休暇にあたってである。また、過去にはパートの勤務削減にも関与した。 採用については、代表も関与できるが、面接に随伴することもある。一人で代表をしているのですべてをみれないという。欠席していたときには、なぜ決定がおかしいかを文書で送付する。採用決定にも関与する。 AZB(教育訓練)には、およそ300人が応募、22人の障害者も応募した。しかしポストを得るチャンスがなかったため、市長とレーマンさんが交渉し、一つのポストを障害者を市に用意させた。ただし、市長を個人的に知っていたからここまで交渉することができた。 労働時間は、フレックスタイム制が敷かれているが、個別的な労働時間の形成にも代表として参与する。グループごとの労働時間制もある。労働時間については代表の承認が必要である。現在公務員は在宅勤務も多い。在宅勤務に適しているかについて規則があり、公共と関わる部分は在宅勤務ではできないことされている。誰が在宅勤務に適しているか代表が関与して決める。 (E)統合のための専門サービス(IFD) 〔面会者〕ヴォルフガング・ヴォルフ氏 〔概要〕 ヴォルフ氏は、もともと20年以上、作業所に勤務したが、いまも作業所に勤務しながら、IFDをワークシェアリングのハーフの仕事でやっている。大学では心理学専攻だった。IFDは半分は作業所出身で、半分はそうでない。連邦雇用エイジェンシー(BA)から雇用されている。 学校からは、BAがあっせんする。その際、医師の鑑定がつく。学校の後は、進路としては作業所がメインルートの一つであり、ほかに、職業促進訓練(Berufliche Forderliche Ausbildung)がある。 しかし、これらにあっせんしても、BAに戻ってくる。ここでもIFDが活躍する。 医師の鑑定と本人の意思により、職業訓練するか、作業所に行くか、企業に行くかを考える。 IFDは、助言、職業のあっせんを行う。ポストを見つけ、使用者に説明する(収入を上げられることや、障害がどのようなものかを説明する)。助言行為では、住まいの助言セラピーの助言(例えば、アルコール中毒に対して)、学校での職業指導、法律の説明などがある。 職業の斡旋では、障害がどのような影響があるのかを使用者に対し隠さず説明するようにしている。また、IFDは、障害者にとって作業所か企業かを見極めが難しいときに特に活躍しうる。ヴォルフ氏は、ヴィースバーデンでいくつか知っている企業があるので、どういう人を求め、何がその企業でできるのかについて、知識があるという。 IFDは、面接への随行も行う。当該障害者の説明に足りないものを補うようにしている。随行しないと確かに成功は難しい。当該障害者に何ができるのかをIFDが説明しているから、ミスマッチ失業を少なくできるはずだとする。インターンでも随伴し、使用者に説明行為を行っている。 失業率が低くならないのは、解雇規制が強すぎる上に(フロスさん、シュレンバッハさんもいっている)、休暇が5日多いからだとする(多くの使用者がいっている)。 (F)ZSL(障害者の自立生活のためのセンター) 〔面会者〕ハンス・ペーター・テルノー氏 〔概要〕 テルノー氏は、視覚障害者である。銀行、年金金庫等の職歴がある。 ZSLは、1992年マインツ大学の自治組織からスタートした。運営はすべての障害者で行なっている。99年から3人の職員体制、現在では30人体制となった。ヴィットブルガー、トリアー、コブレンツにも支部がある。 財政は、州、連邦のプロジェクト、寄付行為からなりたっている。 事業は職業紹介、IFDマインツ、住居のあっせん、生活支援(アシスタント)、学校での助言、市でのBeiratなどを行なっている。 労働のための予算(Budget fur Arbeit)という助成金(ラインラントファルツ州の事業主に対する賃金助成)の説明があった。賃金の50%以上を補てんできる。身近かな障害者に対する例では、キッチンのアシスタント、州の労働・健康省の受付、庭師などの事業主に州より助成された。 失業問題について、簡単な仕事がなくなり、資格がいきず、また現代に適合していないという原因が指摘できる。また、職業教育が時代に即応しておらず、典型的な障害者の職業教育(花や、パン屋、ガストロノミー、床屋等)が生きない。手っ取り早くあっせんする傾向も見られる(州で聞いたのと同じ話)。また、優秀な人を紹介する傾向がある。 州の失業率は低い。これには 労働のための予算(Budget fur Arbeit)という助成金が効果がある。しかし、それでも失業率はいまでも高い。 〔統合のための企業訪問〕 (A)ホテルインディペンダンス 〔面会者〕アレキサンダー・トレンクマン氏 他1名 〔概要〕 マインツ市の郊外にある三ツ星ホテル。12人の障害者(知的、精神、学習、身体)が雇用されている。支配人のトレンクマン氏によれば、障害の程度が重度で、業務が遂行できないという人は雇用できないという。雇用するにあたっては、仕事ができるかどうかが重要であり、障害程度は問題ではないと述べる。モチベーション、誠実さ、サービスができるかどうかが雇い入れにあたって重視しているという。 勤務は、30時間労働で、シフト労働となっており、夜にも業務が入ることもある(精神障害者も含め)。障害のないスタッフは、4人で、教育訓練生を含む。キッチンのコックは、障害のない人にしている。 障害者を三つの労働領域に分け、レセプション(3人)、清掃(4人)、レストラン(5人)と分けて雇用している。自分たちで独立して責任を持って仕事することになっている。インタビューをした日中には、レセプションが身体障害者のスタッフ、2階のシーツ替えと清掃を知的障害者と精神障害者のスタッフが担当していた。 間接税である付加価値税が19%から7%に引き下げられており、障害者を40%以上雇用する企業は、税制上、消費者が優遇される建前となっている。このため、このホテルは、三ツ星だが、宿泊料は二ツ星と変わらない。 (B)Iba(清掃会社) 〔面会者〕ヴォルフガング・ウムゾンスト氏 他2名 〔概要〕 10年前、学校の先生の子どもが仕事先を見つけるため、ミュンヘンからの講演を聴いて設立した。50人のうち70%を障害者で雇用する。学習障害、知的障害が大半で、2人の身体障害、3人の聴覚障害、2人の精神障害がいる。 室内清掃、清掃、環境チーム(遊び場=公園を清掃、芝刈りなど)と分けて、業務を遂行している。 ドイツ国内では、賃金の50%まで、障害者を雇用することで生じる労務の減少分を州の雇用納付金から補てんされるが、重度障害者を25%から50%雇用することが条件となっているのは前述のとおりである。しかし、この企業では、重度障害者の割合が高いため、補助金が得られていない。このため、企業の財政はきわめて苦しく、明日どうやって経営するかを考えていると経営者のウムゾンスト氏は語っていた。 総じて、使用者側は、一定の能力を要求するため、軽度の障害者を雇いがちであるが、この企業では、重度障害者の企業での雇用先として創設されたので、そうした雇い方をしていないという。 (C)スーパー 〔面会者〕ウルリッヒ・フロス氏 〔概要〕 ハイデルベルク郊外において、精神障害の人を雇用してスーパーを開いている。障害なしの職員は週40時間の労働時間、障害者は週30時間の労働時間で、交替労働になっている。精神障害者は仕事を休むことがあるが、しかし、それだけであり、あとは別の人と変わらないと経営者のフロス氏は述べる。全員期限のない契約を締結しているが、安心して休んで職場に復帰できるようにとの配慮である。 障害のないスタッフが2人、精神障害のあるスタッフが5人という構成である。経験者を採用しており、精神障害のある人も2人は経験者である。経験なしにはやっていけないという。但し、経験のない人には、このスーパーのなかで少しずつ教える。 採用の際には、50未満の障害程度必要。それ以外では、障害程度はみない。例えば、統合失調症といっても、障害程度は、経験上労働能力とはあまり関係ない。障害者手帳は統合局が必要とするので、持っているかどうかは同氏は応募者に聞くが、それ以外の理由の理由には関心はない。しかし、実際には、適性や能力をみるため、数ヶ月試用期間を置いている。 フロス氏は大学で社会福祉と経営学を学んだが、同氏によれば、経営に経営学や経営の知識も必要であり、何が経営できるかを考える必要があると述べる。作業所のような組み立て作業などでは市場では十分やっていけない。ただし、社会的な思想も必要だというのを強調する。統合のための企業には、教会、作業所からの起業が多く、病院からの起業もある(BAGはそのための助言やゼミナールも行う)。 企業からの統合のための企業への転換はあるが、とても少ない。企業と統合企業の大きな差異は、利益を収益増をはかるために投資せず、新たな障害者を雇用するために投資することであるという。 フロス氏が統合のための企業を始めたのは、法律が整備される以前、母が亡くなったときに、残されたものがもったいないと思ったのがきっかけだった。そこで、セカンドハンドショップを始め、特に、誰かが亡くなったときに、セカンドハンドで買い、それを半額などで売却するというショップを始めた(いまも存続している)。 塗り替えの事業も始めた。2年前からスーパーを始めたという。この地域は、山あいで、高齢者、外国人、社会扶助の受領者も多い。スーパーは郊外にあるもので、高齢者などは車がなく、買いにいくことができないため、スーパーの需要があると思った。現在は、小さなショッピングモールになっている。安い商品を提供している。 フロス氏は、BAG統合のための企業のバーデンブリュテンブルク州の代表を務めているが、補助金が増えれば、統合のための企業は増えていくと期待する。 2.欧州行政機関・欧州NGO (1)欧州委員会(EC)雇用・社会問題・機会均等局障害者統合ユニット 〔面会者〕Johan Ten Geuzendam(課長)Inmaculada Placencia Porrero(課長補佐) 〔概要〕 (A)欧州連合(EU)では、2003年以来欧州障害者戦略に基づく施策が実施されている。その目的は、障害者の機会均等化を実現することで、その手段としてEU障害者行動計画(DAP:2003年〜2010年)がある。 同計画は、障害者が直面する平等上のギャップを解消するための政策上のプライオリティを定めた、2年単位の計画として策定されている。2008年〜2009年の計画は、アクセシビリティに焦点が当てられている。 その目的は、障害者のインクルーシブな参加を奨励し、基本的権利の完全な享受をめざすこと。これは、(柔軟性、援助付き雇用、公共雇用サービスと協働することを通して)労働市場のアクセシビリティを促進すること、 商品・サービス・インフラのアクセシビリティを向上させること、障害者権利条約の履行を促進すること、ならびに差別からの保護に関するEUの法的枠組みを補足することなどにより、なされる。 EUでは、2010年以降もこの取組みを継続するため、公募したパブリックコメントなども参考に新障害者戦略(2011年〜2021年)を策定中で、2010年11月には公表の予定という。この新戦略は、EDFが提案している欧州障害者協定に相当するものといえよう。 (B)EUでは、新戦略に加え、EDFなどが求めている雇用均等枠組指令(2000年)を見直し、雇用・職業領域を超えた、商品やサービスの提供、交通、教育、住まい、テレコミュニケーションなどの領域にまで拡大することを2011年に予定している。この見直しの根拠のひとつとなっているのが、ECが2007年に公表した欧州バロメーター(Eurobarometer)調査結果である。 それによれば、回答者の91%が(障害者にとっての)バリアを取り除くためにさらなる行動が必要、また79%が、障害が男女にとって最も不利な状況と考える、と答えている。こうした調査結果からも、雇用・職業領域をこえた障害者差別と闘うためのEUの法制度の整備が必要と、判断されたわけである。 (C)また、EU諸国において障害者の均等待遇を推進するものとして、一括適用免除委員会規則や公共調達指令などがある。前者は、障害のある労働者への補助などは、EUレベルの公正な競争ルールの例外措置として認めるものであり、後者は、保護雇用施設などへの優先発注や障害者のアクセシビリティに配慮した商品やサービスなどの規格化や標準化を意図したものである。 (D)なお、EU諸国では、保護雇用の場で働く障害者と一般の職場で働く障害者との間の賃金格差が大きくないことが、保護雇用から一般雇用への移行があまりすすまない理由のひとつといえる、というコメントがあった。 (2)欧州障害フォーラム(EDF) 〔面会者〕Carlotta Besozzi(事務局長) 〔概要〕 (A)目的など EDFは、1996年に設立された。その主な目的は、障害者抜きで障害者に関する決定がなされないようにするため、障害者の機会均等の推進とその人権を擁護することである。 (B)会員の構成など 会員は、正会員53団体(29の欧州各国を代表する障害当事者団体と24の欧州地域NGO)、通常会員15団体、オブザーバー会員3団体および準会員45団体から構成される。事務局スタッフ数は、事務局長を含め、11名。 正会員の条件は、各国を代表する団体、欧州地域NGOを問わず、障害者がメンバーの過半数を占め、かつ、その理事会メンバーの半数以上が障害者であることとされる。 EDFの理事会メンバー31名は、全員障害当事者と家族である。理事会は年4回開催される。年次総会に加え、各種委員会が定期的に開かれる。年次総会での決議は、全会一致が条件となっている。 (C)収支(2009年) 2009年のEDFの収入は110万ユーロで、その内訳は欧州委員会(EC)からの運営費補助84万ユーロ、会費20万ユーロおよびプロジェクト補助6万ユーロである。支出は110ユーロで、その内訳は運営費104万ユーロ、プロジェクト6万ユーロとなっている。 (D)主な活動 EUの障害者行動計画(2003年〜2010年)が今年で終わることから、EDFではEUが障害問題に引き続いて取り組むよう、欧州障害者協定(European Disability Pact、2011年〜2021年)を提案している。その主な内容は、(A)国連・障害者権利条約の条文を踏まえた、EUの関連法制の見直し、(B)すべてのEU政策について障害のメインストリーム化をはかることで、具体的には、教育における平等なアクセスと機会の均等、雇用における平等なアクセスと待遇、収入の最低保障と社会的保護などの確保など。 また、EDFは、現在のEU雇用均等枠組指令(2000年)が、雇用・職業分野における平等なアクセスと非差別に限定されていることから、雇用以外の領域もカバーする、障害に特化した差別禁止指令を制定することを、ECに求めている。この障害者非差別指令は、雇用均等枠組指令を補足・強化するものとされる。 EDFは、欧州障害者協定や障害者非差別指令の実現をめざし、EC、欧州評議会および欧州議会という3つのレベルへの働きかけを行なっている。 (E)障害者雇用へのポジション EDF内では、割当雇用制度と保護雇用制度についての意見が分かれている。EDFの目標は、基本的には一般労働市場への統合である。この目標の達成が困難な障害者については、保護雇用も必要と考える。ただし、(A)一般雇用と同等の労働条件であり、そこでの仕事が能力向上につながるものであること、(B)一般雇用への移行のためのサービスが提供されること、が保護雇用を認める条件である。 (3)欧州障害者サービス事業者協会(EASPD) 〔面会者〕Mr. Luk Zelderloo(事務局長)Ms. Miriana Giraldi(政策担当者) (A)概要 1996年設立。欧州全域に8,000の会員団体を擁し、様々な障害のある約800万の人々にサービス提供している。会員団体の内訳は、介護関係が6,000、雇用・就労が1,500、教育・スポーツが500である。運営主体は約80%がNGOであり、20%は市や町などの自治体立である。 EASPDの目的は質が高く、効果的なサービスの提供を通じて、欧州全域の障害者の平等な機会を追求することである。具体的には、EU障害者政策への提言やモニタリング等ロビー活動、障害者のインクルージョンと質の高いサービス提供のための研究やプロジェクト活動、会員へのEU政策、EU補助金等の情報提供等を行なっている。 活動の柱は大きくは4つあり、それぞれ常任委員会を設けている。第1は、組織委員会であり、主に欧州の中部、東部、南東部の会員の能力開発を促進している。第2は、教育委員会であり、すべての人に開かれた教育システムの開発を目指している。障害者の教育面での改善と、教育スタッフの研修機会とベストプラクティスの交換により質の高いサービスの提供を目標としている。 第3は、雇用委員会であり、あらゆる種類の雇用を対象範囲としているが、特に一般労働市場での障害者雇用に焦点を当てている。第4は、政策インパクトグループで、障害分野に関する欧州レベルの政策や法律に影響を及ぼす、障害に関する政策についての情報交換や、EASPDの意見や対応を取りまとめている。 会員の種類には、2種類ある。まずアンブレラ(包括団体組織)団体会員は障害者サービスを提供する非営利団体組織で、EU加盟国のいずれかに所在していなければならない。単独団体会員は、政府、非政府、営利、非営利にかかわらず、EU加盟国のいかなる障害者サービス提供団体も対象となる。会費は、所在国の国民総生産(GDP)の額によって決定する。 ブリュッセルの本部には、事務局長を含む6人のスタッフが勤務している。欧州委員会(EC)より年間10万ユーロが、運営費として補助されている。 (B)障害者就労への見解 基本的には通常労働市場における雇用であるべきだが、一般労働市場での就労が困難な人には援助付き雇用、保護雇用も必要である。欧州の他のNGOとともに欧州委員会(EC)の資金補助を受け、「コンバージョン(Conversion)」という、保護雇用から一般労働市場への移行プロジェクトを実施した。 すべての労働政策には、次の4つの視点が必要としている。第1は、いかなるレベルの戦略や政策も利害関係者(ステークホルダー)の合意によるものでなければならないこと。第2には、メインストリーム化のアプローチとして、職場の改善や交通アクセスの確保が重要であること。第3に、障害者本人と雇用主双方へのサービス提供が必要であること。第4に、研究や明確なデータに基づいた革新(イノベーション)であること。 2009年11月ギリシャのテサロニキにおいて開催された年次会議において、「テサロニキ宣言」という障害者就労に関する意見書(ポジションペーパー)を発表した。この意見書では、EC、各国政府、そして障害者サービス提供者に対して次のような勧告を行っている。 a ECに対する勧告 ・保護雇用から一般労働市場での雇用への移行を促進すること ・障害者雇用率等のデータを収集し統計を作成すること ・国連障害者権利条約の履行を推進すること b 各国政府への勧告 ・一般労働市場での就労を保障する法的な枠組み作りを促進すること ・新生涯学習戦略を構築すること ・一般労働市場で働く障害者の賃金を保障すること ・保護雇用から一般雇用への円滑な移行を図ること c 障害者サービス提供事業者への勧告 ・サービス提供事業者は自ら手本となるべく障害者を雇用すること ・サービス提供事業者は保護雇用と一般雇用とを結ぶ架け橋となること。さらに障害者を自らの組織の理事会や意思決定部門に迎え入れること ・サービス提供事業者のサービスは障害者にとって使いやすいものであること。たとえば情報等は誰にも読みやすいものであること ・常に革新的なサービスを提供するため、サービス提供事業者はスタッフの研修等を奨励すること (4)ワーカビリティ・ヨーロッパ(WE) 〔面会者〕Mr. Henner Sorg(コミュニケーション担当)Mr. Brendan Sinnott(欧州アドバイザー) (A)概要 ワーカビリティ・ヨーロッパ(WE)は、ワーカビリティ・インターナショナル(WI)の欧州地域グループである。WIは、障害者就労支援サービスを提供する事業者団体の世界ネットワーク組織で、 欧州、アメリカス、アジア、オセアニアの4つの地域グループがある。1987年に設立し、2009年の時点で42国・地域に133会員を擁する。日本では、全国社会就労センター協議会(セルプ協)、日本セルプセンター、きょうされんの3団体が会員となっている。 WEは24カ国に41会員を擁し、設立以来WI活動の屋台骨を支えてきた。活動を大きく分けると2つあり、ひとつはサービスやビジネスの開発、もうひとつは欧州委員会(EC)を始めとする欧州行政機関へのロビー活動である。 a サービス開発グループ 会員間で障害者雇用の増加をもたらす知識、経験、サービス・プログラム、成功事例を交換し共有する。 b ビジネス開発グループ 企業と連携し社会的責任(CSR)活動を促進する。多国籍企業との間で共同購入を行い、企業と会員との共同事業を仲介する。 c 公共政策グループ ECの政策について意見書を提出しWEのポジションを示す。また、欧州障害フォーラム(EDF)等他の欧州NGOと連携し欧州行政機関へのロビー活動を行う。 第2部 各国の社会支援雇用の実態と課題 1.理念・経緯・現在の法制度 (1)フランス (A)根拠法 2005年改正の「障害者の権利と機会の平等、参加、市民権に関する法律」(2005年法)。その主な内容は、「適切な措置」(合理的配慮)の導入と、雇用義務の強化である。すでに労働法典において雇用における障害を理由とする差別の禁止が規定されていたが、2005年法により「適切な措置」を講じないことは差別に当たることが明確にされた。 雇用義務の強化については、具体的には以下の内容である。 a.除外職種の廃止 b.ダブルカウント等重複カウントの廃止 c.納付金額の引き上げ d.制裁的納付金の導入 e.公的部門の使用者への納付金賦課 f.障害者の雇用促進に関する労使交渉の義務化 g.一般労働市場で働く労働者への最低賃金保障(賃金減額規定の削除) h.社会支援雇用の再編成 (注)生産性が、最低賃金(SMIC)に満たない障害のある労働者については、納付金から満たない部分について賃金補てん。その対象者は、現在約8,200人。 (B)障害者の就業状況 人口 約6,500万人(2009年) 障害者数 約500万人 在宅労働年齢人口(15歳〜64歳) 約3,940万人(人口の約60%) 就業率:一般 71% 障害者 44% 15〜24歳 一般 31% 障害者 61% 25〜49歳 一般 87% 障害者 60% 50〜64歳 一般 58% 障害者 26% 障害のある一般就業者 約68万人   民間企業 375,000人(適応企業28,500人含む) 20人以上の事業所 235,000人 20人未満の事業所 140,000人 公的機関 160,000人  自営 33,000人 社会支援雇用(ESAT)116,000人 a.適応企業(事例:APY) 従業員54人中、障害者43人(適応企業の条件は、従業員の80%以上が障害者であること)。43人のうち、補助の対象は24人で、補助額は1人あたり月額900ユーロ。ただし、55歳以上の障害者については、特別補助として月額1,600ユーロ。 (注)補助額900ユーロの根拠:1ヵ月151時間労働のSMIC額1,312ユーロ×0.8 就労の場所別人数:施設内 30人、施設外 20人 施設内作業:企業からの下請(売上高の30%)と自主生産(洗剤とゴミ袋加工)(売上高の70%)。 APYの売上は270万ユーロ(2009年)。 企業からの受注には、「みなし雇用制度」(企業からの発注額や購入額に応じて雇用率にカウントする制度。1人分は、15,500ユーロとして計算)を積極的に活用している。 (注)全国雇用センター(Pole Emploi)によれば、「みなし雇用制度」については、大企業などから仕事のとり方がわからないか、あるいは企業が求める水準(単価・品質や数量・納期など)の仕事に対応できないESATなどが多く、「みなし雇用」で雇用率にカウントされているのは、ごくわずか。 なお、Pole Emploiでは、障害者の雇用を支援するため、全国に107ヵ所の障害者専門雇用センター(Cap emploi)を設け、専門相談員(コンサルタント)1,500人を含む、2,000人の職員を配置している。 適応企業に対しては、一部の障害従業員への賃金補助はあるが、消費税(19.6%)や法人税(33%)などへの税制上の優遇措置はない。また、機械設備への補助もない(納付金制度に基づくAgefiphの助成金はあるが、申請手続きに手間取るため、その申請はしていない)。 適応企業は、経営的にもきびしく、倒産したところもあるが、APY所長によれば、適応企業は増加傾向にあるという。 b.ESATの現状と課題 ・運営費補助:利用者1人あたり年間11,500ユーロ、総額12億7,400万ユーロ ・利用者への賃金補助:1人あたり年間8,900ユーロ、総額9億7,800万ユーロ ・成人障害者手当(AAH):満額で1人あたり月額652.60ユーロ、総額4億1,400ユーロ(2007年の支給総額(ESAT以外も含む。)は、55億500万ユーロ) ・ESATの年間総売上:10億3,000万ユーロ(利用者1人あたり月額9万円程度) 賃金総額:2億2,720ユーロ(利用者1人あたり月額2万円程度) ESATの課題:年間新規受入れ人数は、約1,500人と限られているため、利用したくても利用できない待機者が相当数おり、待機期間も長期化していること。 ESATに関するAPF(フランス身体障害者協会)のコメント: ESATから一般雇用への移行をすすめる必要性は認めるが、すべての障害者が一般の労働環境で働けるわけではない。一部の障害者には、保護的環境が必要。 ESATにも労働法に基づいて賃金を適用すべきという意見もあるが、ESATは一般企業にはできない支援を行なっており、そこに労働法を適用すべきかは、疑問。 現在のような経済状況下で、労働法を適用すると解雇の問題もでてくることが予想される。 (注)フランスの経済成長率は、2007年2.3%、2008年0.3%、2009年−2.4%。失業率は、2007年8.3%、2008年7.9%、2009年9.5% APFとしては、ESATと一般企業の相互移行ができる仕組みがよい。労働法に移行するにあたっては、障害者が不利になる状況をどう改善するかが課題。 すべての人が労働や教育の権利を平等に享受するには、アクセスの改善が必要。APFはそのための運動を展開している。 重度障害者には、支援費が少なく、在宅の場合が多い。在宅障害者の支援は、主として家族が担っている。 (2)オランダ (A)全体的状況 オランダで社会支援雇用制度の根拠法となっているのは、1969年に制定され、その後1998年および2008年に改正された社会雇用法(WSW)である。同法に基づき市などによって設立された社会雇用事業所(SW)が現在全国に93ヵ所あり、全体で約9万2千人の障害者が雇用されている。 それは同国の就業人口の約1.2%を占める。日本の就業人口に換算すると、80万人近くになる。同国がこれほど大規模な制度を維持しているのは、同法の目的が、「すべての障害者は、他の人びとと同様に、自分の能力に応じて雇用につく権利を有する。 通常の条件下での適切な職場を一般労働市場において見出せない場合には、社会雇用によってこの権利は保障されなければならない」とされていることによる。 SWで就労する障害者のうち、高齢による退職者は全体で年間2千人程度、一般雇用への移行者は年間2,500人から3千人程度である。したがって、SW全体での新規受入れ人数は、年間5千人程度に限られることから、SWの待機者は現在約2万人、その待機期間は平均約3年とされる。 SWの定員は、100人程度の比較的小規模のものから、約1万人というきわめて大規模なものまである。SWで就労する障害者の労働条件は、市とSWが締結する労働協約(CAO)で決まる。SWは、障害者に加え、社会保険受給中の長期失業者等約6万4千人にも就労支援を行なっている。 その支援期間は、期限のない障害者に対して、6ヵ月から1年間と限られている。 SWで働く障害者の就労形態別構成は、一般企業に出向いて就労する、企業内就労28%(その約14%は、出向先に就職)、公園や公共施設などの維持管理業務などの事業所外就労22%、事業所内就労50%となっている。 SWの財源は、国からの補助約70%、SWの売上収入(企業内就労者への企業からの支払いも含む)約30%である。 (B)2008年改正社会雇用法とデ・フリース委員会の勧告 社会雇用法(WSW)の目的は、身体、知的、精神的な疾病により保護された状況でないと通常の仕事ができない者の労働参加を促進することである。2008年1月1日より改正社会雇用法が施行された。改正法は地方自治体や実施主体者に対し、社会雇用法の目的達成のためにさらなる制度運営への裁量を与えている。また、改正法は援助付き雇用へのインセンティブも与えている。しかし、本改正は、増え続ける給付請求等様々な問題に対する答えとはなっていない。 この問題への対応策を検討するために、政府は元社会・雇用大臣バート・デ・フリース(Bert de Vries)を委員長とする社会雇用法見直し委員会を設置した。2008年9月、委員会は雇用と所得制度に関する基本的改正を勧告した。通称デ・フリース報告と呼ばれる勧告の核心は「能力に応じて働く」というもので、年金や他の給付の受給に関わらず、支援を必要とするすべての人たちに同様のアプローチを取るということで、これにより目的に即した解決方法が提供され、障害者の一般労働市場への参加を可能とするとしている。 給付より労働を重視すること、求職者や使用者にもっとフォーカスすることが、すべての者に対して参加や発展のための機会均等をともなう均衡の取れた効率的な制度創設の基本である。委員会は、この制度は障害者のみならず最低賃金を稼ぐことができず、その結果働くために長期的な支援を必要とするすべての人に適用すべきであるとしている。 政府は、委員会による勧告を支持しているが、まずはパイロット・プロジェクトの実施により効果を測るつもりである。プロジェクト・テーマは、以下のとおりである。 a.一般労働市場における雇用の促進 b.社会雇用事業者に対して、事業所内の生産事業に従事することよりも一般労働市場での労働が可能となるように、就労者の技術を高めることを重視した方針への転換  c.事業所における就労者へのサービス改善、セカンドオピニオン、サードオピニオンが可能なシステムの構築 d.一般労働市場での労働インセンティブのための新賃金制度および地方自治体への財政支援制度の改正 プロジェクトのどれも、制度面や具体的な運用面の両面での可能性の改善を目指している。パイロット・プロジェクトは2009年秋のスタートを予定されていたが、実際は2010年になり開始されたものが多く、現在33のプロジェクトが立ち上がっている。 今回訪問した社会雇用事業所の実施するプロジェクトを見てみると、職業情報センターの開設(DZB、ライデン市)、地域に適した仕事の開発(Paswerk、ハーレム市)等がある。 パイロット・プロジェクトは2012年末まで続くが、政府はその結果を見てさらなる法改正を検討するとしている。 デ・フリース報告の大きな問題提起は、社会雇用の対象者である障害者と長期失業者等との間の賃金格差の是正である。現在、障害者の平均賃金は最低賃金の125%であり、長期失業者等は80%である。報告では、これを障害者、長期失業者等を問わず就労への距離(困難度)にのみ着目し、一律80%〜100%に引き下げる提案をしている。これに対し、障害者団体からは早くも制度改悪との反発の声が上がっている。 (3)デンマーク 1)障害者の定義、人数等 デンマークでは、障害の公式な定義はないとされている(障害者均等機会センター、2006)。障害者均等機会センター(Center for Ligebehandling af Handicappede;CLH)発行の「デンマーク障害者政策原則(2006)」では、デンマークにおける「障害」の定義は、時代とともに変化するダイナミックなものであるので公式のものはないとしながらも、次のように定義している。「障害がある(being disabled)とは、 人が身体的、精神的、知的な障害(impairment)があるために、他の市民と同じ生活をするうえで補てんが必要である、ということを意味する」(11p)。また、デンマークでは、「障害者手帳」の交付もなく、障害者の登録もなく、障害の程度による等級表(インペアメントテーブル)の区別も存在しない。従って、統計的には、公的年金や助成金の受給者、公的制度の支援を受けている者しかわからず、障害者数はサンプル調査で推計するしかない。 Steen Bengtssonの“Report on the employment of disabled people in European countries: Denmark’s country report”(2009.11,Academic Network of European Disability Experts(ANED))によると、2008年の推計で、障害者数は約66万人(人口の18.6%)、障害者の就業率は51.2%、一般労働市場で働く者(フレックスジョブを含む。)は約33万人(就業障害者の97.5%)「保護作業所」で働く者は約8.4千人、職業リハビリテーションを受けている者が約2.2万人(この数字のみ2007年)となっている。 (http://www.disability-europe.net/content/pdf/DK%20-%20ANED%202009%20Employment %20Report%20Final.pdf) 2)理念、経緯 デンマークでは、1970年代末まで多くの障害者は国が運営する特別の保護施設で人生の大半を送っていた。1980年に保護施設は、国から地域政府ないし自治体政府に権限委譲された。この権限委譲には、バンク・ミケルセン(Niels Erik Bank-Mikkelsen)が主導し、メイン・ストリーミング、ノーマライゼーション、インテグレーション(統合)、サブシディアリティ(補完性)と言った言葉に代表される障害者政策理念の転換があった。1980年には、障害者審議会も設立され。次第に、大規模施設は小規模のものに分割され、障害者住宅が設置された。障害者が地域の中で見える(visible)存在となり、生活条件が改善されていった。 1990年代初めに米国でADA(障害のある米国人法)が施行された時、デンマークでも同様の差別禁止法を制定しようとする動きもあったが、政府当局者や多くの障害者団体の賛同を得られなかった。こうした立法は、デンマークの文脈では、望ましからぬ個人主義、法律第一主義であり、デンマークの障害者政策を特徴づける連帯の原則を損なうリスクが大きいと考えられた。障害者を他の社会から分離し、均等機会、均等参加の動きをむしろ妨げると見なされた。代わりに国会が、1993年「障害者の権利と機会の均等の原則」を決議し、その後の障害者政策に大きな影響を与えた。1998年には、障害者政策に責任を有する大臣が任命され、後述の「フレックス・ジョブ」も導入された。2007年には、98の全自治体に障害者審議会が設置された(以上、主として、デンマーク障害者審議会『デンマーク障害者政策』、2002年に基づく)。(http://www.clh.dk/index.php?id=909) さて、現在のデンマークでは、障害者政策は、「補てん」、「社会各部門の分担責任」、「連帯」、「均等機会」の4つの原則に基づいて実施されている(以下で紹介するフレックス・ジョブは、この4原則を雇用政策に適用したものと考えることができる)。デンマーク障害者審議会発行の『デンマーク障害者政策原則』“The Principles of Danish Disability Policy”(The Danish Disability Council,2006.11)の内容を、以下簡単に紹介する。(http://www.clh.dk/index.php?id=1228) まず、「ハンディキャップ(handicap)」と「障害(disability)」を区別し、以下のように定義している。 ・個人の持っている障害(disability)+ 障壁(barrier)= ハンディキャップ(handicap) ・障害(disability)+ 補完、補てんするもの(compensation)=機会均等の実現(equal opportunity) その上で、障害者政策の4原則を提示している。 (A)補てん、埋め合わせ(Compensation)の原則 国運営の大規模施設があった当時は、障害者は病人ということで、医師の判断が重要視されていた。今日では治療や医学的研究は障害政策のほんの小さな部分となり、生活条件とその補てんが重視されるようになっている。この原則を、障害に基づく制約と社会からの要求(demand)・期待のギャップをつなぐ橋と考えると、この橋は個人の側からと社会の側から両方から築かれなくてはならない。 (B)社会各部門の分担責任(Sector responsibility)の原則 障害者が市民としての権利を享受し、義務を果たして生きていくためには、ある人々にはある種の制約があるという事実を、社会の全部門の人々、機関が尊重し、障害者がアクセスしやすい環境を整備する責任を分担しなくてはならない。この原則は、(A)障害者も全ての者と同じサービスを同じ場所で受けることが重要であり、(B)現代の分権化された社会では、責任と決定権は無限の意思決定者に委任されており、どの障害政策も、中央政府だけでの運営、費用負担では実現できないことから、非常に重要である。 (C)連帯(Solidarity)の原則 この原則は、障害者への支援、補てんのための施策は税制を通じ、連帯して実施すべきであり、補てん策の提供は、無料で、所得や資産水準に関わらずなされるべきだというものである。障害政策だけでなく、福祉政策の一般原則であるが、障害政策の均等機会原則、補てん原則と密接にかかわる重要な原則なので、4原則の1つに挙げた。所得・資産水準に関わりなく、社会で均等な出発点を得るためには補てんを必要とする。 (注)以前の説明文書では、他の3つの原則だけを掲げていた。 (D)均等機会(Equal opportunity)の原則 1993年に、障害者の均等機会・均等待遇に関する国会宣言B43と国連・障害者の機会均等化に関する標準規則が出され、それ以来、均等機会原則がデンマーク障害政策の基礎に置かれている。均等化は、全ての者を同じように扱うということではない。各個人の潜在可能性を開発・活用し、各人の能力の沿ったスキルを開発するために、均等機会を確保するということであり、 出発点の違いを補うため、しばし優先的な待遇を意味する。また、障害者は、非常に多様であることを理解することが重要である。均等機会の原則は、どのような障害であろうと、公的サービスにどんなに依存する者であっても、各自の条件で人生を生きる権利でもあり、完全な均等機会を得ることができない場合には、均等化は「良い人生(the good life)」(注1)を確保することである。 連帯、均等などが重視される背景として、デンマーク社会においては差別意識が低いことが挙げられる。例えば、2009年に欧州委員会の雇用・社会問題・均等機会対策局が、差別問題をテーマにしたEurobarometer特別調査を実施したが、これによると、障害者差別がかなり広まっていると回答した者は、EU27カ国平均では53%であったが、デンマークでは42%であった。 (デンマークより割合が低かった国は、オーストリア(39%)、アイルランド(35%)、マルタ(33%)だけであった。なお、女性差別がかなり広まっていると回答した者は、EU27カ国平均で40%、デンマーク31%、高齢者差別がかなり広まっていると回答した者は、EU27カ国平均で58%、デンマーク42%であった。 (注1)デンマークでは、「良い人生」がキーワードの一つになっているようだ。片岡豊「デンマークにおける障害者の「自立」の考え方―政治と倫理」(『海外社会保障研究』、2009春)では、デンマークの倫理哲学者、ヨーン・フーステズ(Joergen Husted)は、現代の西欧社会で『善い人生』を得るためには、 自立概念は少なくとも次のような条件を満たさなければならないと言っているという。(a)自分の人生は自分の責任の下に自分で選択し、自分で形成すること、(b)自分の持っている能力を可能な限り展開させること、(c)社会的価値のある活動を行うこと、(d)人として成功すること 3)障害者関係制度、団体 @)主な関連法制度 ((A)〜(E)は雇用省が主管、(F)〜(G)は社会問題省が主管) (A)The Consolidation Act on Active Social Policy no.707 of 29.9.1999(http://www.ladk.dk/meddelelser/english/legislation/active_consolidation_act.htm) リハビリテーション(障害者向け職業訓練を含む)、フレックス・ジョブ、スキーネ・ジョブ、フレックス失業給付、就業に必要な支援措置等を規定。 (B)The Consolidation Act on Compensation of the disabled no.55 of 29 January 2001 障害者向け雇用補助金等を規定。 (C)積極的労働市場政策法(The Consolidation Act on Active Labour Market Policy) 雇用補助金、職業訓練等を規定。 (D)失業保険法(The Act on Unemployment Insurance, etc.) 失業保険、失業扶助等を規定。 (E)社会サービス法(Lov om social service:The Consolidation Act on Social Services) 社会福祉サービスを一元的に規定している。在宅ケア、シュートステイ、リハビリテーション、住宅提供、ヘルパー制度(パーソナル・アシスタントも含む)、保護作業所での「保護就業」、デイアクティビティ、補助器具等を含んでいる。 (http://english.sm.dk/MinistryOfSocialWelfare/legislation /social_affairs/social_service_act/Documents/Consolidation%20Act%20on%20Social%20Services.pdf) (F)年金法(The Social Pensien Act) 公的年金を規定。 A) 障害者審議会 「デンマークの政治文化は、多くの領域で、政府当局者と利害関係者との間での協力、対話、交渉という特徴を持っており、高度にコンセンサス志向の文化である。これは、障害者政策の分野でも同じであり、障害者団体は、公式の審議会、委員会等を通じ政策立案者と対話に努める。こうした政治文化が政策発展に大きな影響を与え、1980年には、政府当局者と障害者代表との対話が障害者審議会の設立で強化された。」(デンマーク障害者審議会、『デンマーク障害者政策』、2002年) さて、審議会は社会問題省大臣の任命する15名で構成、 内1名が議長(中立的な立場が取れる元政治家など)、7名がデンマーク障害者団体連盟(DH)の推薦、7名が関係各省からの推薦メンバー(多くは公務員)である。任期は4年。障害者団体と政府機関の「対話」という考えから、メンバーは障害者の代表と政府機関代表とを同数にしている。審議会の職務は、社会における障害者の状態をモニターし、政府と国会とに障害者政策関係の提言を行うことで、全ての領域の障害関連施策に対し、提言できる。 社会問題省大臣は、専門知識を持ったアドバイザーを任命でき、また、他の専門家を会議に招集できる。但し、会議での発言権はあるが、議決権はない。会議は非公開だが、議事録を作成する。なお、2007年実施の地方行政の再編成−従来の地方自治体の人口規模が小さいことが行政運営の阻害要因になっているとして、従来の国、県(アルト:14)、自治体(コムーネ、約270)の3層構造から基本的に2層構造、しかも、コムーネを98と半分以下にした。 途中に、医療と地域開発にほぼ特化した5つのレギオンというのがあるが、従来のアルトに比べて非常に弱い。―で、98の全自治体にも障害者審議会が設置されたが、障害者組織(すなわちDH)から3−7名、自治体任命で3−7名の構成になっている。 18名の職員からなる障害者均等機会センター(CLH)は、その事務局機能を果たすとともに、障害者以外の者と比較した障害者の均等状況をモニターし広報する役割を負っている。CLHは、2011年年初に閉鎖され、デンマーク人権協会(IMR)と新設される障害者審議会事務局とに分割移行の予定である。 B)障害者団体 デンマーク障害者団体連盟(DH、Danske Handicaporganisationer、Disabled Peoples Organisations Denmark)は、1934年に4団体(聾?、難聴、視覚障害、移動障害)の連合体として発足、現在32団体(全ての障害を網羅)、32万人のメンバー(障害者本人ないしその親)を擁している。各障害に1組織(一人が2以上の組織に加入はできない。北欧諸国の伝統。)が、対応している。連盟に加盟するには、会費支払いメンバーが500人以上いて、発足して5年以上経過している必要がある。最高機関は、年1回開催される代表者会議で、32の構成団体から各2名、 5つの地域支部から各1名が集まる。代表者会議は7人の執行委員を任命する(委員長1名、副委員長1名)。また、社会政策、労働市場政策、教育政策、医療政策、アクセスビリティ・支援措置政策の5つの常設委員会がある。事務局は35人である。 さて、国と98の全自治体にそれぞれ障害審議会があり、DHないしDH地方支部からメンバーを派遣している。国、地域政府、自治体が障害者と相談したい場合、審議会等に障害者の参加を求める場合、DHに依頼が来る。DHでは、3,000人を超えるスポークスパーソン(多くが障害者本人ないし親)を指定しており、いつでも対応できる体制を取っている。DH運営委員や審議会メンバーの選任、審議会での重点事項の選定等では障害者団体間の調整が必要だが、粘り強い対話の精神で行なっている。障害者施策を推進するためには、障害者団体の団結が非常に重要で、 団結を実現するためにデンマークの伝統である徹底的対話を行なっている、と強調された。なお、運営費は、国営宝くじの分配収入が主で、会員費と官民のプロジェクト支援が補完している。また、発展途上国で障害者支援を積極的に行なっている。 C)労働組合 デンマークは労使自治を非常に重視しており、労働政策関係の多くの事項が法律でなく労働協約で決められる。例えば、週所定労働時間は圧倒的に37時間が多いが、労働時間の長さは法律では決まっていない。初めは金属産業の労働協約で決まり、それが他の産業に広がり、1990年のデンマーク労働総同盟(LO)とデンマーク経営者協会(DA)との中央労使団体基本協約に取り入れられ、それがデンマーク労働総同盟傘下以外の職場にも広がった。この背景として、デンマークの労働組合組織率は、2009年1月で約72%と最盛期90%超に比べると低下しているものの、他の国に比べ大変高いことがある(日本18.3%、アメリカ11.8%、英国28%、ドイツ19.9%、フランス7.8%、オランダ19.8%、スウェーデン70.8%)。組織率以上にデンマークの労使の社会的影響力は高く、雇用政策、職業訓練等の制度運営に労使が深く関与している。このように、社会の中での労働組合の存在感は日本に比べてずっと大きい。 デンマークの労働組合は障害者問題に対して関心が高い。多くの労働協約には、社会政策的条項(Social Clause)が含まれている。例えば、2007年のDI(デンマーク経営者協会)とCOインダストリー(工業関係の組合をほとんど網羅)との間で締結された2007年労働協約(デンマークの労働協約は2年から4年の有効期間で締結されるが、DIとCOインダストリーとの交渉が多くの労働協約のパターンを決める重要な役割を担っている。この協約締結後、傘下の職業別、企業別での労働協約レベルでの労働協約が締結される。)には以下のような条項がある。 第30条(就労能力が減少した労働者) 就労能力が永続的ないし一時的に減少した労働者の場合、職場の労働組合代表の関与の下、個別の職場レベルで、該当労働者と企業の間で、この協約とは異なる就労条件(低減した就労時間や給与水準)について合意が可能。 4)フレックス・ジョブ 社会支援雇用を、「働くことを希望しながらも、通常の就労条件では適切な仕事に就くことが困難な障害者に対し、賃金補てんや人的支援措置を含む多様な社会的支援方策を提供することにより、ディーセントワークを提供すること」と捉えるならば、デンマークの「社会支援雇用」は、基本的に、フレックス・ジョブと考えていい。 フレックス・ジョブは、1998年に導入され、職業リハビリテーションサービス(最大5年)を受けても通常の就労条件では職を得られない、65歳未満の永続的で重度な障害者(「特殊な社会問題を抱える者」を含む。)に対し、使用者、障害者本人、自治体の三者合意に基づき、公的負担による永続的賃金補てんを提供しながら、その個人状況に合わせた柔軟な就労条件(短時間就労、調整された就労条件、限定された職務要件等)での仕事を提供するものである。2009年で約5.2万人(全就業者の約2%)が、フレックスジョブで働いている。約6割が民間部門で、約4割が公的部門で就業している。 通常の失業給付より9〜18%低い「フレックス失業給付」は、この「フレックス・ジョブ」を希望しながらあっせんされなかった者だけに支給され、2009年では約1.1万人が受給した。18歳から65歳未満の障害者に支給される障害年金も、「アクティベーション・プログラム」(福祉給付を受給する要件として参加を義務付けられている職業訓練等のプログラム)や「リハビリテーション・プログラム」に参加した後でも、なお補助金付きの「フレックス・ジョブ」に永続的に従事できない人に対してのみ、支給される。すなわち、優先順位は、一般就労>フレックス・ジョブ>フレックス失業給付>障害年金の関係にある。 中央政府からの償還率(自治体支出額に対する中央政府の補てん割合)は、障害年金では35%、社会支援サービス50%だけなのに対し、フレックスジョブでは65%と高く設定されている。(潜在的)障害年金受給者に、フレックスジョブをあっせんする強い経済的誘因を自治体に与えるためとされる。なお、フレックスジョブを解雇された場合、自治体は、障害者当人に他のフレックスジョブを探す義務がある。自分でやめた場合は、その義務はない。 (4)ドイツ (A)障害者法の理念 障害者雇用法の理念としては、障害者の同権的な参加が掲げられている。EU雇用均等枠組指令(2000/78/EG)により、障害のある者と障害のない者との平等が要請されている。この指令の目的は、加盟国の平等取扱い原則の実現を考慮して、雇用と職業に関する宗教、世界観、障害、年齢、または、性的な指向を理由とした差別の撲滅に関する一般的な枠組みを設定するところにある(同指令1条)。 この指令の国内法への置き換えのための措置として、2006年7月7日、連邦参議院で一般平等取扱法が通過し、2006年8月18日同法が施行された。同法一条では、「この法律の目的は、人種、民族に特有な出自、性、宗教、または、世界観、障害、年齢、性的なアイデンティティを理由とする不利益取り扱いは、回避され、または、除去されなければならない」。指令とほぼ同様に、障害を理由とした直接差別、間接差別が禁止されたほか、セクシュアルハラスメントを含むハラスメントの禁止規定が置かれている。 また、特に、かつては障害者のための学校(特別学校)を終えたら、作業所というのがルートであったとされるが、政府はこれを改編させ、障害者を一般の労働市場へ編入させるようとしつつある。障害者の職場を作業所ではなく、企業とするため、政府はその企業への編入を促進している。一般労働市場における常用雇用への編入への橋渡しとして「統合のためのプロジェクト(Integrationsprojekt)」は、その政策の一環である。 10%後半台と障害者の失業率の高さが顕著であったため、失業に対するアルタナティブとして、障害のある失業者の一般労働市場への参加とあっせんが政策的な課題となっている。 障害者権利条約との関係では、ドイツでは、障害者の権利に関する2006年12月13日の国際連合条約のための法律案および、障害者の権利に関する2006年12月13日の国際連合条約のための議定書(Drucksache 16/10808)が議会を通過した。 障害者の権利条約は、障害者の生活状況に関する人権を具体化しているもので、すべての生活領域における障害者の差別を禁止しており、市民の政治的、経済的、社会的、および文化的な人権を保障するものであると理解されている。議定書は、国際法的な条約であり、これは、個人の不服申し立て、 および調査の手続をめぐる、条約34条による障害者のための委員会の権限を強化するものである。双方の手続は、協定の実行と監視の強化を目的としている。この法律により、協定及び議定書の批准の前提条件を作り出そうとしているものである(注2)。 雇用との関係では、上の条約批准以前に、2001年において、社会法典第九章(IX)81条2項において不利益取扱い禁止条項が規定され(注3)、2006年には、一般的平等取扱法1条以下において、障害を理由とした差別を禁止していたことから、同条約批准の前後で、目立った法改正をめぐる議論はなかったとされる。 (注2) この法律は次のように、2条からのみなる。 「1条 障害者の権利に関する2006年12月13日の国際連合条約のための法律案および、障害者の権利に関する2006年12月13日の国際連合条約のための議定書が承認される。この条約及び議定書は、ドイツ語での公式の翻訳によって次のように公表される。  2条(1)この法律は、発効日に生じる。(2)この協定が45条2項により、議定書が13条2項により、ドイツ連邦共和国に対して発効する日に、官報に公表される。」 (注3)社会法典IX 81条2項においては「使用者は重度障害のある従業員に対してその障害を理由として不利益に取り扱ってはならない。個々の場合に、これについては、一般的平等取扱い法の規定が適用される。」と規定される。 2.対象者・認定システム (1)フランス (A)2005年法による変化 障害者雇用施策の対象となる障害労働者の定義は、「1つ又は複数の、身体的、感覚的、知的、精神的機能が変化したために、雇用の獲得又は継続の可能性が実際に減少しているすべての者」(労働法典L5213−1条)とされている。 また、2005年2月に成立した「障害者の権利と機会の平等、参加及び市民権に関する法律」により、社会福祉・家族法典L114条の障害の定義が、「障害とは、身体、感覚、知能、認知又は精神の機能のうち、1つ又は複数の機能の実質的、継続的、又は決定的な低下のほか、重複障害又は日常生活に支障をきたす健康障害のために自らの環境において被るあらゆる活動の制限又は社会生活への参加の制約を指す」と修正された。 これまで障害労働者の認定はCOTOREP(職業指導・職業再配置専門委員会)により行なわれてきたが、2005年法はCOTOREPとCDES(県特殊教育委員会)の機能を統合し、新たにCDAPH(障害者権利・自立委員会)を創設した。 CDAPHはMDPH(県障害者センター)に設置され、障害労働者の認定、職業進路の決定のほか、各種障害給付の支給決定も行う障害に関するワンストップサービスセンターとなっている。CDAPHのメンバーは、県の代表、国の代表、労使代表、障害者支援機関の代表、障害当事者団体の代表等幅広い構成となっている。 (B)職業進路の決定 MDPHには医師などによる多分野専門家チームが配置され、労働能力の低下が判定され、この判定に基づき、CDAPHにより労働形態が決定される(労働法典L5213-20条)。 労働能力が30%以上あればEA(適応企業)を含む一般雇用、5%〜30%未満はESAT(労働支援機関・サービス)、5%未満はデイセンターの対象となる。CDAPHにより障害労働者の資格(RQTH)が認定されると、以下の権利が発生する。 a.EAやESATでの労働 b.職業訓練・研修 c.Cap Emploi(障害者専門の求職支援サービス機関)のサービス d.民間企業および公的機関の雇用義務対象 e.Agefiph(障害者職業編入基金)の助成金の対象 CDAPHの決定に不服がある場合は、障害者本人、またはその法定代理人は、決定より2ヶ月以内にMDPHに対して不服の申し立てを行なうことができる。 (2)オランダ (A)対象者 社会雇用(SW)の対象者は、労働能力が15〜25%の障害者等で、被用者保険運営・就労事業機関(UWV WERK)が行う。UWV WERK事務所は全国に130ヵ所設置され、その内27ヵ所で社会雇用の対象かどうかの審査をしている。同事務所は、UWV、地方自治体、および民間企業(人材派遣会社や職業訓練団体)が合同で運営している。 (B)UWV WERKにおける障害認定の基本的な流れ 障害認定は、保険医と労働市場専門家により別々に審査。(A)保険医が、労働者が完全な就労不能状態にあるかどうかを「能力プロフィール」を作成し、評価。(B)労働市場専門家が「受給者に障害がない」時の所得と残存就労能力による所得を比較。 (C)残存就労能力を能力プロフィールによる能力リストと機能情報システム(FIS)とを比較し、決定する。(FISは、オランダの3,500社における約7,500の仕事に必要とされる精神的および身体的能力、必要な資格、職務、職場の環境、賃金水準、1日の勤務時間などを主な内容とするデータベース。これらの情報を必要に応じて更新するのは、25人の職務分析専門家。) この審査の目的は、年金を受給する障害者が残存能力を使ってできる仕事を最低3種類以上決定すること。(障害年金が)全額給付となるのは、3種類以上の仕事が見つからなかった場合。3種類以上見つかった場合には、最も所得水準が高いものが3つ選ばれ、「就労能力」の基本となるのは、2番目の仕事の賃金額。 この「就労能力」と受給者の前職での賃金との差が「就労能力の喪失」であり、就労不能に関するレベルを示す。 就労能力の喪失の範囲は、前職の85%以上の就労能力である場合の「障害なし」から、前職の20%未満の就労能力しかない場合の「就労不能レベル80%以上」までの幅がある。 UWV WERKでの審査期間は、数週間から最高16週間。障害状況の再審査が行われるのは、障害年金給付開始後1年、その後5年ごと。 オランダの障害年金プログラムの特徴は、残存就労能力を障害前の収入と比較し、15%未満から80%以上までの8段階に障害率を分類している点。部分的障害年金給付額を決定するのは、この分類による障害程度で、給付額は障害率の分類の中間点に0.7を掛けた額。 (C)機能評価リスト(FML)による障害認定 就労能力に基づく障害認定プロセスには、障害者の現在の機能障害を査定する保険医と、稼働収入の査定をするために障害者が就くことが可能な仕事の種類を特定する労働関係専門家が関わる。 こうした2つの分野の専門家による評価でわかるのは、健康の問題がひきおこす機能の制限による労働市場への参加の全面的または部分的な減少の結果である、就労能力の低下の程度。 障害認定プロセスに用いられるのが、機能評価リスト(FML)。FMLは、70の異なった機能についての医師による評価。これらの機能には、個人的機能、社会的機能、物理的環境への適応、動的動作、静止姿勢および就業時間の6つに大別される。 この評価結果により、障害者が障害をもつ以前に就いていた仕事ができないと判断された場合、労働分野の専門家により、FMLの結果に現れた機能制限の範囲内でどのような仕事が可能かを判断。さらに、これらの仕事に就いた場合に得られると予想される収入を査定。 (参考)機能評価リスト(FML) ○第T区分:個人的機能 1.注意の集中、2.注意の配分、3.記憶、4.自分の能力についての認識、5.効果的な行動(課題遂行)、6.自立した行動(自発的な課題の実行)、7.行動速度、8.個人的機能の他の制限、9.職場における個人的機能に関する特定の条件 ○第U区分:社会的機能 1.視力、2.聴力、3.言葉、4.書き、5.読み、6.他人の感情的な問題への対応、7.個人的な感情の表現、8.争いへの対処、9.他人との就業、10.移動、11.その他の社会的機能の制限、12.社会的機能についての仕事における特定の条件 ○第V区分:物理的環境への適応 1.暑さ、2.寒さ、3.通風、4.皮膚の接触、5.保護対策、6.ほこり、煙、ガス、蒸気、7.騒音、8.振動、9.その他の身体的調整能力についての制限、10.物理的な職場環境への適応に対する特定の条件 ○第W区分:動的動作 1.優位性、2.定位の制限、3.手と指の使用、4.触る、5.キーボードとマウスの使用、6.キーボードとマウスを使っての就業、7.ねじる動き―手と腕、8.腕を伸ばす、9.仕事中に頻繁に腕を伸ばすことができる(1分間に20回程度)、10.からだを曲げる、11.仕事中に頻繁に体を曲げる(1分間10回程度)、12.回す/ねじる、13.押す/引く、14.運ぶ/持ち上げる、 15.仕事で軽い物を頻繁に取り扱う(1分間に10回程度)、16.仕事で重い物をひんぱんに取り扱う(1分間に10回程度)、17.頭の動き、18.歩行、19.仕事中の歩行、20.階段を上がる、21.よじのぼる、22.ひざまずく(またはしゃがむ)、23.その他の動的動作に関する制限、24.仕事における動的動作のための特的条件 ○第X区分:静止姿勢 1.座る、2.座って仕事をする、3.立つ、4.仕事中立っている、5.ひざまずく又はしゃがむ、6.曲げている及び/又はねじっている、7.肩より上の高さの活動、8.仕事中に頭を一定の位置に保つ、9.姿勢をかえる、10.その他の静止姿勢に関する制限、11.仕事における静止姿勢に関する特定の条件 ○第Y区分:就業時間 1.1日の時間帯(24時間)、2.1日あたりの就業時間、3.1週あたりの就業時間、4.就業時間に関するその他の制限 (3)デンマーク (A)対象者 フレックス・ジョブ(通常の就労条件では職を得られない、65歳未満の永続的で重度な障害者等に対し、使用者、障害者本人、自治体の三者合意に基づき、公的負担による永続的賃金補てんを提供しながら、短時間就労等その個人状況に合わせた柔軟な就労条件での仕事を提供するもの)での就労候補者。すなわち、一般労働市場で働ける十分な就業能力はないが、その個人状況に合わせた柔軟な就労条件(短時間就労、調整された就労条件、限定された職務要件等)が提供されれば働くことができる者。 (B)フレックス・ジョブの認定システム 就業困難な者がジョブセンターないし自治体の窓口に来所した場合、ジョブセンターでの最初の認定で、就業可能性があると認定された者は、通常の雇用就労、フレックスジョブの可能性を検討し、駄目な場合に、年金支給を決定する。その際、リハビリテーション、教育、訓練で 就業能力が向上するかどうかも検討する(デンマークにおいて、障害年金支給は、障害の有無ではなく、あくまで就業可能性で判断される)。おおよそ就労能力(work ability)の半分以上が残っていると判断されれば通常の雇用契約、残存能力が3分の1未満だと判断されれば障害年金支給に、半分と3分の1の間と判断されればフレックスジョブを探すことになる。 病気休業者に対しては、次のような対応がなされる。 一般就労者が何らかの病気になり、病気休業を取得(疾病給付受給)すると、3つのグループ(カテゴリー)に分かれる。フレックスジョブは、b)の者が多い。 a)短期休業(手を折った、足を折った等)⇒次の仕事にすぐ戻る。 b)長期休業のリスクがある者(身体かメンタルかの問題あり。) c)長期休業が必要な者 休業手当は最長1年で、2回延長できる(1回半年。最長1年半)。デンマークでは全住民に担当のケースワーカーがいる。そのケースワーカーが、1年の休業期間中に、何ができるか本人にインタビューしながらチェックする。社会的ないし経済的問題、友達、家族、病気の状況も考慮する。病気については、医師からの証明書が必要だが、就業能力は証明書には出てこない(ジョブセンターには、医師も非常勤で所属、週20時間勤務)。 医師は、長い仕事ができる、短い仕事ができるかの意見を出すが、決定は、あくまでケースワーカーが行う。ケースワーカーは、上記のような、対象者の持つ就業のプラスとなる「資源」とマイナスになる「障壁」をもとに、包括的に評価を下す。 フレックスジョブでの就業可能性があるとなると、ケースワーカーからの書類が、フレックスジョブ担当のジョブ・コンサルタントに回されてくる。そして、ジョブ・コンサルタントが本人を呼び出してインタビューし、本人に向いた仕事を考え、企業等職場を探す。前職が向いている場合と、むしろ違う仕事がいい場合(うつ等精神的病気になった場合等)とがある。 候補となる職場が見つかると、職場で、使用者、就労希望者本人、コンサルタントが、どのような仕事をどのような働き方で行うか、話し合う。標準的な仕事はデンマークでは週37時間であるが、当初は、10時間、15時間、20時間などから始める。30時間を超えないものがほとんどのようだ。試行期間中に、就労可能性をチェックし、向かないとなれば、別の仕事を考える。 最終的には、使用者、本人、コンサルタントにケースワーカーも含めてミーティングを開き、就労時間、就労条件を決める。労働協約で決まっている当該職務の時間当たり最低賃金額については、労働組合に確認する。 (C)フレックス・ジョブの実態 2001年で1.3千人、2009年で約5.2万人(全就業者の約2%)の障害者がフレックスジョブ就労をしている。内男性20,357人、女性29,631人と女性が多い(約6割)。また、50−66歳が52%を占める。 フレックス・ジョブの受給者は、男女別では女性(60%)、年齢別では、30歳未満5%、30歳代20%、40歳代33%、50歳代40%、60−64歳12%と高齢者が多い。技能レベルでは、未熟練労働者(50%)、 熟錬労働者(35%)、大学卒以上(10%)となっている。約半数が、サービス関連か公的資格を必要としない職に就業している。2002年で既に、デンマークの約18%の民間企業とほぼ半数の公的機関に1人以上の 「フレックス・ジョブ」の従業員がいた(N.D.Gupta and M.Larsen,2008)。政府計画では、2015年まで対象者を増やし、最終人数を7.5万人から10万人と見込んでいる。 但し、問題もある。フレックス・ジョブでの就業者(2009年で約5万人)は急増しており、フレックス失業給付を受けながらフレックスジョブの提供を待っている者(約1.1万人)も多い。その一方で障害年金受給者は減少していない。 すなわち、職業リハビリテーションを適切に受ければ、通常の条件で一般労働市場で働ける者が多くフレックス・ジョブで就労しているため、より条件が厳しい障害者 (例えば、2008年で、40歳以下で障害年金の受給を開始する者の7割以上が精神疾患に悩む者であった。)がフレックスジョブに就労できないでいるのではないか、という批判が強まっている。給与の上限が高いため、高給で働く者がより多くの公的支援を受けているとの批判もある。 (4)ドイツ (A)重度障害者の概念 障害の概念としては、重度障害者という概念が用いられ、それは「身体的機能、知的な能力、または、精神的健康が、高い確率で、6ヶ月以上、年齢により典型的な状態から逸脱し、社会生活への参加が阻害されている場合に、障害がある」と定義される(社会法典IX 2条1項)。 世界保健機関(WHO)の機能不全と障害についての分類を活用しており、機能の不全に着目するのではなく、社会参加の目的に向けられている。「医学的鑑定業務(のための)手引(き)」をもとに認定される(1977年、その後1983年と1996年に変更)(注4)。よく知られているように、重度障害には障害程度は50が必要とされる(20から100で認定)。 (B)重度障害の有無に関する認定手続 障害の手続と程度は、援護行政の官庁(援護局、ラント援護局、援護医師の検査)の一元的な処理に委ねられる(同法典69条1項1)(注5)。障害の存在と障害程度が文書で認定される。障害者の申請により、同局の認定を経て、重度障害の存在、程度、健康上の特徴について証明書が発行される(同法典69条5項)。 (C)同等の者 重度障害者と並んで、「これと同等の者」という概念がある。これは、(A)少なくとも30の障害程度の場合で、かつ、(B)1.障害の結果職場のポストを得られない場合(注6)、または2.ポストを維持し得ない場合(注7)(同法典2条3項)である(注8・9)。 同等の扱いがある障害については、証明書は発行されない。これは社会裁判所に提訴が可能とされる(同法典118条)。 (D)手 続 その手続きも障害者による申立に基づくこととされている。連邦雇用のためのアージェントによって、同等の者といえるかどうかが決定される。決定に不服の場合、異議申立手続があり(同法典118条)、さらに、社会裁判所での訴えが可能となっている。 これらの障害程度は、いずれも、企業の採用や作業所受け入れにはあまり用いられないという。インタビューによると、企業は、重度障害者の雇用率のカウントを受ける目的、および、後に示す各種給付金の支給(例えば、不利益軽減給付金の支給)を受ける目的で、障害程度に企業や企業の人事課は関心を持つという。 現在、690万人の重度障害者がおり(注10)、人口の8.4%に相当する。 (注4)石川球子「ドイツの障害認定制度」独立行政法人高齢・障害者雇用支援機構障害者職業総合センター『欧米諸国における障害認定制度』資料シリーズNo.49(2009年)23頁以下(207頁以下では「医学的鑑定業務手引」が翻訳されている)。 (注5)申請の時点での住居、または、慣習的な滞在地の地域が管轄。 (注6)同等の地位が与えられることで、障害により阻害されている斡旋のチャンスを具体的に改善する場合をさす。障害を有する失業者について。同年齢、同資格の非障害者と障害者との競争可能性の比較することとされる(Feldes/ Kamm/ Peiseler/ von Seggnern/ Unterhinninghofen/ Westermann/ Witt, Schwerbehindertenrecht,9 Aufl.,Frankfurt a.M.,2007,§2Rn.28)。 (注7)ポストがおびやかされる場合として、問題になるケースは、疾病を理由とした解雇が迫っていることのみではなく、使用者が解雇が可能な場合(特に、疾病による解雇)、欠勤の日数が話し合われた場合、配転された場合がこれにあたる(Feldes/ Kamm/ Peiseler/ von Seggnern/ Unterhinninghofen/ Westermann/ Witt,a.a.O.,§2Rn.30)。 (注8)Schaub,ArbR,12.Aufl.,Munchen,2007,§178,Rn.22(Koch). (注9)BSG 2.3.2000,SozR 3-3890 §2 Nr.1. (注10)Statistisches Bundesamt,Statistik der schwerbehinderten Mensch 2007,S.5. ★見直し★ 3.就労所得(賃金補てんを含む)・所得保障制度 (1)フランス (A)就労所得 フランスでは、障害者が働く上での所得保障は通常の労働市場における法定最低賃金(SMIC)がベースとなっている。一般労働市場での就労の他に、EA(適応企業)での就労、医療・福祉機関の位置付けであるESAT(労働支援機関・サービス)での就労にも、そこで働く障害者にはSMICを基準とした所得保障がなされている。 通常の労働市場及びEA(適応企業)で働く障害者は、2005年法(障害者の権利と機会の平等、参加、市民権に関する法律)の成立により法定最低賃金(SMIC)の適用を受ける。また、SMICの他に産業別に労働協約で定められる協約最低賃金がある。2005年法以前は、生産性の減退の著しい障害者について、減額措置が認められていたが、2005年法の成立により廃止された。これにより、一般の被用者と同じ地位を有することになった。2010年のSMICは、時間当たり8.86ユーロである。 一般労働市場における使用者へ障害者雇用義務が発生する対象となる障害者は、CDAPHにより障害労働者の認定を受けた者に限定されることから、通常の労働市場で働く障害者の就労所得は、SMICを大幅に上回ることはあまりないと考えられる。使用者に対する助成として、民間企業の使用者に対して、Agefiphから雇用助成金が支払われる。重度障害者の雇用で生じる負担総額が、SMICの年額の20%以上の場合は、1ポストにSMICの450倍の助成金(年額)、50%以上の負担総額の場合はSMICの900倍の助成金が支払われるが、必ずしも賃金補てんを目的化したものではない。 EA(適応企業)は、2005年法で労働法典の適応を受ける一般労働市場での企業として位置付けられた。EAで働く障害者には、賃金補てんのため一定の条件のもとで国からポストへの助成金が支給される。この助成金は生産性の低減した障害者へ最低賃金を支払うことを目的としている。助成金の額は労働時間×SMICの80%に等しい。また、55歳以上の障害者には助成金の上乗せ補助金がある。EAで働く障害者の就労所得は、EA自体の経営環境が厳しいことから、SMICに近い所得が予想される。賃金補てんの対象者が障害労働者のみであること、仕事量が増加した場合に作業能力の高い一般労働者の雇用が必要になった場合でも80%以上の雇用率を維持するために合わせて障害者の雇用が必要になること、助成金が障害労働者全てに支給されないこと等が理由として考えられる。賃金補てんの対象者以外の障害労働者に日本円換算で1,000円を超えるSMICを支払うことは経営面でのデメリットになっている。 ESATで就労する障害者は、医療福祉機関の利用者と位置づけられ、労働法典の対象外となっている。2005年法により、ESATで就労する障害者へ保障報酬制度を導入した。これにより、ESATで就労する障害者には、SMICの55%から110%を保障する金額が支払われることになった。 保障報酬は、ESATの工賃と国からのポストへの助成金で障害者に支払われる。国からの助成金の最高負担分はSMICの50%で、ESATから支給される工賃の額により逓減される。また、ESATを利用している障害者の多くはAAH(成人障害者手当)を受給していることから、AAHと保障報酬の合計がSMICの151.67時間分を超えた部分についてAAHが減額される仕組みとなっている。労働意欲を高めるために、工賃があがった場合に国からの助成金の逓減率を低く抑えるなどの仕組みはあるものの、ESATにメリットがないために機能していない。実際には、ESATの利用者の報酬はSMICの151.67時間分を超えることはないのではないか。 (B)労働法の適用 EA(適応企業)で働く障害者は、労働法典の適用を受ける労働者の位置付けにあり、EA(適応企業)と雇用契約を結ぶ使用者の立場となる。一般労働市場における労働者の様々な権利(年金、医療保険、労災等)を行使できることになる。 ESATは、社会福祉・家族法典の規定による医療・社会福祉機関であることから、労働法典の適用は受けない。ESATで働く障害者は、福祉、医療、教育的な支援を受けるいわゆる保護的環境の下で働く労働支援契約に基づく利用者となる。安全衛生等に関する規定以外は労働法典の対象にならない。今回のESATの視察先では、医師、言語士等の専門職の配置が充実しており、福祉的な専門職配置の少ないEAとのギャップを感じた。 また、ESATの利用者は労働法典の対象外であることから、解雇の対象にもならない。このことは、一定の所得保障が得られる環境下での福祉的就労の利点として強調される点ではなかろうか。 (C)所得保障制度 フランスでは、障害により就労の機会がない障害者に対して、拠出制の障害年金と非拠出制の成人障害者手当がある。 障害年金は疾病保険制度から支給される社会保険給付で、基本的には疾病保険の被保険者であることが給付の条件となっている。障害年金の支給条件は、疾病保険の加入期間、疾病後の労働・稼得能力の減退割合、保険料の納付済額等の条件を満たすことが求められ、支給決定は初級疾病保険金庫(CPAM)が行う。 障害年金の年金額は、被保険期間のうちで賃金の高かった10年の平均賃金に基づいて算出される。また、介護の必要度を3つのカテゴリーに分類し、介護の必要度合いに合わせて年金が加算される仕組みとなっている。 成人障害者手当(AAH)は、障害年金を受給できない者で、全額国庫負担により一定の所得要件を満たす者に対し、他の社会保障給付を補完して給付される最低所得保障給付である。AAHの支給決定はCDAPH(障害者権利自立委員会)が行う。 AAHの支給要件は、20歳以上で、80%以上の障害率、50〜80%の障害率で1年以上雇用されず労働不能の状態にあり、一定の所得要件を満たすこと等が要件となる。支給額は満額で652.60ユーロ(月額2009年)となっている。さらに、AAHを補完する手当として、所得補足手当と自立生活加算の2つの手当が、2005年法により導入された。また、障害の状況に応じた特別のニーズに対応する障害保障給付(PCH)が創設された。 (2)オランダ (A)就労所得 社会雇用事業所で働く障害者には、法定最低賃金が適用される。オランダでは毎年1月1日と7月1日の2回最低賃金の改定があり、2010年7月1日改訂の最低賃金額は、表のとおりである。最低賃金とは別に、休暇手当が支払われる。休暇手当の額は賃金の最低8%であり、通常年に1回まとめて支払われる。 (単位:ユーロ) 年齢 月額 週額 日額 23歳以上 月額1,416.00 週額326.75 日額65.35 22歳 月額1,203.60 週額277.75 日額55.55 21歳 月額1,026.60 週額236.90 日額47.38 20歳 月額870.85 週額200.95 日額40.19 19歳 月額743.40 週額171.55 日額34.31 18歳 月額644.30 週額148.70 日額29.74 17歳 月額559.30 週額129.05 日額25.81 16歳 月額488.50 週額112.75 日額22.55 15歳 月額424.80 週額98.05 日額19.61 ※社会・雇用省ホームページ 社会雇用事業所の障害労働者の賃金は法定最低賃金をベースに、職種によって設定され、生産性や能力は賃金決定の重要な要素とはならない。社会雇用事業所では、障害労働者に平均して最低賃金の1.25倍の賃金を支払っている。賃金は、労働組合と協議しなければならない。障害者が社会雇用事業所で働き始めると、障害給付は停止される。仕事をやめた後は、再び障害給付を受給できる。 国からの社会雇用事業所への賃金補てん総額(年)は、約24億ユーロであり、平均すると障害者1人当たり年間24,500ユーロが補助されている。社会雇用事業所では、障害者のほかに長期失業者等が働いているが、彼らには国民扶助法を根拠に賃金が支払われるが、平均は最低賃金の80%である。現在「この差をどう説明できるのか」が問題となっている。 (B)労働法の適用 社会雇用事業所の障害者には、訓練期間中の者を除き労働法が完全適用される。労働時間は週36時間であり、年次有給休暇は年間24日付与される。社会雇用事業所の障害者は労働組合員になる権利を有し、大多数が組合に加入している。労働組合とは別に、事業所には労働評議会が設置され、事業所の運営に意見を表明する権利を持つ。 (C)就労能力に応じた障害保険制度(WIA)による所得保障 2年間の疾病療養後、部分的、または完全に就労が不可能となった者はWIA給付の対象者となる。 a.給付の種類 給付には2種類あり、職業的な完全障害となり就労への復帰が見込めない者は「完全障害給付制度(IVA)」の対象となり、部分的な障害者は「部分的障害者就労復帰制度(WGA)の対象となる。 b.給付判定 2年間の疾病療養後完全に仕事に復帰できない者は、被用者保険運営・就労事業機関(UWV)の審査を受ける。審査はUWVの医師と職業専門家によって行われ、障害程度が判定される。判定基準はいわゆる賃金ロスで、従前の賃金が疾病や障害によりどの程度喪失されたかを判定する。判定等級は以下の4区分となる 喪失賃金額35%未満…職業的障害者とは見なされず就労復帰支援が講じられる 喪失賃金額35%〜80%未満…WGAの給付対象となる 喪失賃金額80%以上で就労復帰可能性のある者…WGAの給付対象となる 賃金喪失額80%以上で就労復帰可能性のない者…WIA給付対象となる c.判定に基づく給付内容 @.賃金喪失額35%未満 基本的には就労継続の道を探る。事業主と相談し、他職種への異動、職場の改善、責任権限の変更等の調整を図り、同一職場での就労を継続する。また、事業主も協力し、他の企業への転職も検討する。これらの努力にも関わらず就労継続の可能性が見出せないときは、事業主は解雇許可を申請し、解雇が認められ、失業保険(WW)の対象となる。 A.賃金喪失額35%〜80%未満 WGA給付の対象となる。給付期間は3ヶ月から最長38ヶ月で、対象者の従前の雇用期間によって決まる。ただし、傷病を有する前の36週間に最低26週間就労していなければならない。給付額は、最初の2ヶ月間は直前の賃金の75%が支給され、その後は直前賃金の70%が支給される。就職した場合、最初の2ヶ月間は直前の賃金の75%の給付と新賃金とが併給される。2009年1月1日時点で日額給付額の上限は、183.15ユーロとなっている。 給付期間を終了してもなお従前賃金の50%に満たない場合は、追加給付が支給される。また、就労不能の場合や極めて低い賃金しか稼げない場合は、フォローアップ給付が支給される。追加給付の額は、現在の賃金とUWV専門家による稼得可能額によって決まる。もし本来稼得可能な額の50%の賃金を得ている場合、直前の賃金と稼得可能な賃金の差額の70%を支給される。 フォローアップ給付は、直前の賃金ではなく、最低賃金に対する職業的障害の比率によって支給される。給付率は以下のとおりである。 障害率35%〜44% 給付率最低賃金の28% 障害率45%〜54% 給付率最低賃金の35% 障害率55%〜64% 給付率最低賃金の42% 障害率65%〜79% 給付率最低賃金の50.75% 年額給付額の8%が休暇手当として支給される。休暇手当は毎年5月に一括して支給される。 B.賃金喪失額80%以上で就労復帰可能性のある者 WGA給付の対象であり、給付額は直前賃金の最大で70%が、最終的に完全障害者か部分的障害者か判定されるまで支給される。再評価の結果完全障害者と判定された場合は、完全障害給付が支給される。休暇手当8%も支給される。 C.賃金喪失額80%以上で就労復帰可能性のない者 IVA給付の対象となり、直前賃金の75%が支給される。このほか休暇手当8%が支給される。わずかでも健康回復の可能性があれば、対象者は、最初の5年間は毎年職業評価を受けなければならない。もし就労能力が回復した場合は、WGA給付に移行する。IVA受給者が死亡した場合、遺族がUWVで手続きを行なえば、生前受給していた額と同額の遺族給付が支給される。 (D)若年障害者給付制度(Wajong) 若年障害者給付制度は、若年障害者に対して最低生活保障を行うためのもので、1998年に制度化された。財源は税金で、給付の対象は、オランダに「居住」する65歳未満の人びとのうち、17歳の誕生日に25%以上の障害があり、労働不能の者。または、17歳以上30歳未満で、障害をもつ前年に半年以上学生であった者。 給付額は、障害度と最低賃金に連動する基礎額をもとに算定。2010年現在、基礎額(日額)は29.74ユーロ(18歳)から65.35ユーロ(23歳)。 近年、同給付の受給者が増大し予算の抑制が求められてきたが、法改正で2010年1月1日より、同給付の対象となる若者もまずUWVで就労評価を受けることとなった。従来同給付対象者は就労してもよいし、しなくてもよいという扱いであったが、これにより就労可能な若年障害者は、就労を優先されるようになった。社会雇用事業所の中には、この変化に注目し、若年障害者を専門的に労働市場に結びつける事業を行なうところも出てきた。 (3)デンマーク (A)就労所得 フレックスジョブ就労者の給与は、週あたりの就労時間数に応じた通常の給与が全額本人に渡されるが、使用者には、通常該当分野の労働協約で決められた最低賃金額の2分の1ないし3分の2の補助金が出る(民間企業だけでなく、公的部門の使用者及び自営業者本人に対しても補助金は出る)。 たとえ20時間就労であっても、また37時間働くが効率が悪い場合であっても、通常、1週間37時間(デンマークの標準的就労時間とされる時間数。但し、若干の残業はあり、2008年の平均週労働時間は男41.4時間、女38.5時間である。)働くと得られる給与が支払われる。給与とその他の就労条件は、 雇用主と雇用労働者(障害者)の間で、該当職種の労働協約で決められた最低額以上の給与水準で決められるが、助成金の対象となる賃金額が年ベースで416,210 クローネ(2008年、約800万円)、時間ベースで216.33クローネまでと上限がある。 (B)労働法の適用 フレックスジョブ就労者には、労働者としての諸権利がほぼ適用される。年間5週間の有給休暇、疾病手当、労災保険等も適用されるし、多くの者が労働組合に加入する。 但し、失業保険については、フレックスジョブでの就業者や失業者に対しては、保険料や失業給付が、通常の失業給付より9〜18%低い「フレックス失業保険制度」が適用される。2008年では約8千人が受給した。 なお、デンマークは、労使自治を極めて重視している国で、労働関係では多くの事項が法律でなく、労働協約で決められる。すなわち、労働市場への法介入は例外的でなくてはならないとの合意が議会各政党にあり、労働条件や労使関係についての一般法はない。 (C)その他の福祉就労者 自治体は、65歳未満で一般労働市場の通常条件では仕事を得られない障害者に対し「フレックス・ジョブ」を奨励しているが、「フレックス・ジョブ」では就労できないため、障害年金を受給しながらの就業を希望する者には、それを提供しなくてはならないとされている。 現在、「スコーネ・ジョブ」(skaane jobs)という、フレックスジョブとは異なる賃金補助の枠組みがあり、2009年平均が約5千人の者が、障害年金の減額なしに、企業等の現場における軽労働から収入(賃金補助は賃金の2分の1で、労働協約で決められている当該業務の最低賃金の6分の1を超えてはならない。 従って、賃金収入の上限は、フレックスジョブの3分の1以下ということになる。)を得ている。賃金、その他の労働条件は、労働協約で特定される。フレックス・ジョブに対する自治体の賃金補てんには、中央政府から65%充当されるが、スコーネ・ジョブへの中央政府の充当は少ない。 また、フレックス・ジョブやスコーネ・ジョブでは就労できず、「保護作業所」で支援員のサポートを受けながら就業をしている者が、2008年で8,356人いる。保護作業所の利用が困難な者には、アクティビティ活動(デイセンター、デイホーム、クラブ等)が提供される。 フレックス・ジョブやスコーネ・ジョブは、雇用省が管轄する「積極的社会政策法」で規定されているのに対し、「保護施設」で働く者は、社会問題省が管轄する「社会サービス法」で規定されている。デンマークでは、こうした「保護作業所」で 支援員のサポートを受けながら就業をしている者を「保護就業」(beskyttet beskaftigelse:Sheltered employment)と言っているが、デンマーク政府は、できるだけフレックス・ジョブやスコーネ・ジョブに移行させたいとしている。 現在、労働者としての扱いがされておらず、障害者団体は、労働者としての扱いを求めている。なお、フレックス・ジョブやスコーネ・ジョブ就業者は労働者として扱われ、「保護就業」には入らない。 (注)デンマークの保護作業所、デイセンター等については、全国社会福祉協議会全国社会就労センター協議会『第7回全国社会就労協議会 海外障害者雇用・就労事情視察研修セミナー報告書(ドイツ、デンマーク、フランス)』、2005を参照されたい。 (D)障害年金(早期年金、Fortidspension) 1人当たり年額は、2009 年平均で、結婚カップル(同棲含む)では、160,176DK(2010年8月初週時点で、1クローネは約15円)、単身者では188,448DKである。この額は、年金+他の収入が15,919ユーロ(結婚ケース)、7,933ユーロ(単身者ケース、 1ユーロは2010年8月初週現在で114円)を超えた場合、減額される。38,483ユーロ(結婚ケース)、50,040ユーロ(単身ケース)を超えた場合、年金額は0になる。個人の事情で、特別にコストがかかると見込まれる者には、最低月1,500クローネの上乗せがある。65歳になると、老齢年金に移行する。 デンマークの在住者が、就業能力が低下し、所得の必要を自治体に申請した場合、自治体は、まず、アクティベーション(職業訓練等)、リハビリテーション、その他の手段で彼ないし彼女の就業能力を向上させようとする。 そして、a通常の条件により、一般労働市場で就業継続ができるようにする、または、bフレックスジョブでの就業を可能にする、ことを目指す。 こうした就業の方策が取れないと判断されると、「就業能力は、永続的に低下している」と判断され、障害年金が支給されることになる。障害年金は、「障害」や何らかの医者の診断に基づくのではなく、単に「就業能力」がないかどうかで判定される。 「就業能力」は、「フルないし部分的な収入を得るために具体的な仕事を遂行するに必要な仕事要件を満たす能力」と定義される。なお、障害年金の受給者は、2008年で約24万人(男性11万人、女性13万人)、新規受給者は約4万人である。 (E)老齢年金 公的年金はすべて税でまかなわれている(但し、その他に、労使が保険料を拠出する確定拠出年金があり、約80%の労働者が加入している)。受給開始年齢は65歳で、デンマーク国籍を有する者は、15歳から65歳の間3年以上デンマークに居住すれば65歳から受給できる (外国籍の場合、年金支給開始年齢前の5年を含む最低10年の居住実績が必要)。フル受給は、65歳の年金支給開始年齢到達前に40年間以上デンマーク在住した場合で、月5,096クローネが支給される。40年より少ないと、各年40分の1ずつ支給額が低下する。所得テストがあり、 単身者は所得が259,700クローネより多いと30%減額され、配偶者ないしパートナーと暮らしている場合、179,400クローネより多いと減額される。単身者は、各月5,130クローネ追加され、配偶者ないしパートナーと暮らしている場合、2,396クローネが追加される。 受給者は、2008年で81.2万人。なお、公的年金の支給開始年齢は現在65歳だが、2006年の福祉改革で、2024年から3年かけて2027年以降67歳とするとともに、さらに、2030年以降5年ごとに、15年の事前予告期間を付け、平均寿命の変化に合わせ改訂することを決定した。 (F)失業保険 デンマークでは、失業保険基金を労働組合が管理しているいわゆる「ゲント制」を採用しており、失業保険でカバーされるためには、労働組合が任意で設立し政府承認を受けている失業保険基金の会員でなければならない。対象者は、18歳から63歳の雇用労働者、 自営業者、少なくとも18カ月の職業訓練を終えた者、そして中央ないし地方政府の職員である。2006年では、政府3分の2、労働者(自営業者も含む)で3分の1を負担(政府負担額は基金財政の動向次第、労働者負担分の一定割合を負担する使用者もいる)。給付要件は、基金加入期間が1年以上(労組員でなくてもいい)あり、かつ過去3年に52週(1,924時間)の雇用期間があればいい。保険給付期間は最長4年で、失業前最低所得グループでは失業前12週間の平均所得の代替率が9割、週3,515クローネ上限(2008年、失業前所得が高くなるにつれ、代替率が減少する。)、 4年間の給付を受けて、また新たにという場合は、基金加入1年、雇用期間52週の要件が新たに必要となる。待機期間は、自発的失業ないし、自営業の場合は3週間となる。2006年、従来のクローズドショップ(採用は組合員からのみ)が欧州人権裁判所でEU人権条約違反とされたこともあり、近年、組合員数が微減傾向にあるが、組合が管理する失業保険基金に加入しないと失業保険資格が得られないし、失業者となり受給するためには、ジョブセンター又は所属労組に登録し、そこで再就職に向けた個人別行動計画を作成する必要がある。 また、労使交渉を通じて労働組合が色々と頑張っている。こうしたことから、労働組合に入るメリットは現在でも大きいと言えよう。失業保険カバー率は、就業者の約90%、失業者の79%(それ以外の失業者は、自治体の失業扶助を受ける)。 パートタイマーも基金加入1年以上(自営も含む)、過去3年に34週(1,258時間)の雇用期間があればいい。給付額も、通常の失業保険給付最大額の3分の2に等しい額となる。 デンマークも現在の経済危機の下、財政支出の抑制が迫られており、失業保険給付期間の上限4年も2010年7月以降の新規受給者から2年に短縮された。 (G)その他の支援制度 2000年制定のBPA(user governed personal assistance、利用者管理によるパーソナル・アシスタンス)法により、1日24時間、週7日までの個人的ヘルパーの利用が可能となった。また、住宅改造は、必要性が認められれば全額自治体が負担する。但し、数年待つ場合も多いとのことであった。 (4)ドイツ 基礎保障 (Grundsicherung)と呼ばれる給付が市から支給される。社会的扶助に相当する水準を確保し、社会文化的な存在のミニマムを保障する。要件としては、65歳以上、または18歳以上の者が対象とされ、継続的に就業が制約しており、「収入が僅少」であることが必要とされる。つまり、疾病または障害を理由に給付能力が減額されている場合で、医学的な事情から一日3時間稼得可能ではない場合に、「収入僅少」にあたる。この場合、困窮性の要件不要とされ、医師の証明が必要とされる。作業所での就業者は法律により収入の減額者にあたるとされている(注11)。 基礎保障の基準給付(Regelleistung)は2009年7月1日より359ユーロとなっている。工賃は平均129.59ユーロとされるが、控除額がある(それが約25%となる)。このほか、市から住宅や暖房費について障害者本人に対して補助金が支給される。カッセル市では、住居分258ユーロ(部屋の広さによっても異なる)の給付に加えて、暖房分で59ユーロ(部屋の広さによって異なる)の給付額がある。そうすると、 作業所利用者の所得は、総額計773ユーロ(約11万)となっている(単身あるいは世帯主の場合である)。家族と同居の場合や非世帯主の場合500ユーロ台であるという。 基礎保障による場合、生活の実態は、ほぼ日本の障害基礎年金に拠る生活実態より若干上回る程度でしかない。実際、視覚障害者に対するインタビューでは、「映画にはいけず、タバコは吸えず、お酒も飲めないが、それをがまんすれば、一応食べて生きてはいける」と述べられ、ぎりぎりの生活を強いられているのがわかる。 (注11)現在通常の給付は359ユーロ(09年7月1日以降)となっている。加算制度があり、障害者の場合17%加算(61.03ユーロ)となっている。 4.一般雇用への移行支援 (1)フランス EA(適応企業)から一般就労への移行支援策として、(A)優先雇用、(B)出向、(C)Agefiphからの助成の3つが用意されている。 優先雇用はEAを退職して一般雇用に挑戦し、その目的が達成されなかった場合のEAでの再雇用制度である。EAとの雇用契約解消から1年間は再雇用の優先を受けることができる。 出向はEAに在籍したままで、通常の企業に出向して働くことができる。ただし、出向の期間は最大で1年間で、EA在籍中は1回のみ更新が可能である。 Agefiphからの助成は、EAを退職した障害者を採用した企業に支給される助成金制度である。雇用開始の1年目のみの支給となっている。 ESAT(労働支援機関・サービス)における一般就労への移行支援策もEAと同じ支援策が講じられている。出向に関しては、原則的に2年間までとなっている。 また、ESATで働く障害者が、一般労働市場支援策であるCAE(雇用支援契約)・CIE(雇用発意契約)等の援助付き雇用、職業訓練を補足する有期労働を利用した際には、一定の支援を受けることができる。 しかしながら、そうした一般就労支援策は実際のところEA・ESATでは成果を上げていないのが現状である。ESATで働く障害者の一般就労移行率が1%程度で極めて低い成果しか得られていない。 (2)オランダ 社会雇用法の枠組みの中で働く障害者の就労形態は以下の3つに大別される。 (A)社会雇用事業所内の仕事に従事する (B)社会雇用事業所に籍を置きながら、社会雇用事業所が業務契約した事業所外の仕事に従事する (C)社会雇用事業所に籍を置くが、派遣または企業と直接雇用契約を交わし、ジョブコーチ等の支援を受けながら企業内での仕事に従事する オランダ社会雇用事業者連合(Cedris)によると、現在約92,000人がこの枠組みの中で就労するが、形態別には(A)が50%、(B)が22%、(C)は派遣が24%、直接雇用が4%となっている。 社会雇用法は、本来「(就労を希望する)すべての障害者に仕事を」の理念のもと、一般労働市場での就労が困難な障害者に就労の場を提供してきたが、国の財政負担軽減のため社会雇用にかかる予算削減の必要性が生じ、近年は社会雇用から一般雇用への移行促進が重視されるようになった。 この方針に基づき社会雇用事業所では、今後事業所内就労者数を減少し、事業所外就労の増加、および援助付き雇用の増加を事業目標にしている。特に市の経営する社会雇用事業所では、経営成果を測る指標のひとつとして事業所外就労者数の増加率、 および援助付き雇用者数の増加率を掲げ、経営陣の努力を促している。また、国は障害労働者が病気になっても一般の事業主が特別な費用負担をしなくて済むような制度を設け、事業主がリスクなしに障害者雇用に取り組める環境を整えている。 このような一般就労移行の努力や移行促進制度にもかかわらず、一般就労に移行する障害者の数はなかなか増加しない。92,000人のうち毎年の移行者数は2,500人〜3,000人であり、移行率は約3%である。 社会雇用の待機者数が約2万人いることを考慮すると、移行率をもっと増加させないと待機年数の減少はさらに困難となる。国は2010年現在社会雇用就労者数と待機者数合わせて112,000人を2020年までに5万人に減少させることを目標として掲げている。 (3)デンマーク (A)フレックス・ジョブと一般雇用との関係 フレックス・ジョブは障害年金受給者の増加を抑え、一般職場での障害者の就労を促進している。他方、フレックスジョブのために、一般労働市場での同一条件での就労が進まない側面(使用者も障害者もフレックス・ジョブを選好しがち。)があることも指摘されている。自治体の適正なフレックスジョブ認定、フレックスジョブとしての就業の場開拓の積極化、そして自治体、障害求職者のより頻繁な接触が課題として挙げられている。 (B)一時的賃金補てん 高等教育ないし職業教育訓練を18カ月以上受けたものの、教育・訓練で得た資格を活かす仕事が見つからない重度障害者を雇用する企業は、6か月(特殊の場合は9カ月)を上限として賃金の50%相当の雇用補助を受けられる(いわゆる「砕氷船スキーム」(icebreaker scheme)がある。2008年では、約7,400人が受給している。 (C)リハビリテーション、就業のための個人支援(パーソナル・アシスタンス) 一般労働市場への統合に困難を生じている者の統合を図るため、本人(障害者、社会的排除されている者(socially excluded)、難民)とその家族を対象に、最大5年間支援する。 支援内容は、所得支援、準備訓練、職業訓練と就業体験、自営支援からなり、所得支援(リハビリテーション給付)は、失業給付の最大額に等しい。但し、25歳以下の場合、半額となる。一般税財源。なお、職業リハビリテーションを受けている者は、2007年で約2.2万人であった。 就業者へのパーソナル・アシスタンスは、週37時間労働(フレックス・ジョブを含む)に対し最大20時間。職業教育訓練も対象になる(雇用省の立法に基づく)。また、外出につき、1ヵ月当たり15時間のヘルパーを付けられる。 著しい身体障害を持った行動的な若年者の場合は、1日24時間までのヘルパーを雇用できる(社会問題省の立法に基づく)。1998年の導入当初は、身体障害者のみが対象であったが、現在では、精神障害者も対象になっている。2009年、知的障害者を対象にしたパイロットプロジェクトが開始された。 (4)ドイツ (A)移行支援 障害者を一般企業に移行させるためだけの訓練支援については、作業者や統合のための企業がその役割を担うわけでははない。移行支援そのものではないが、職業リハビリテーションを行う機関として、職業訓練所(Berufsbildungswerke、52施設)および職業支援所(Berufsfoerderungswerke、28施設)がある。前者は、若年者の職業訓練と職業準備、後者は、成人障害者の再訓練と継続訓練が実施される。 (B)作業所 作業所での就労は、障害者にとっては依然として中心的な役割を果たしている。作業所に対しては、「社会における生活への参加」のための措置(33条以下、41条3項)が講じられ、編入補助金(社会的扶助の一部)12が市より支給されうる。但し、2001年7月1日よりコストの自己負担は廃止された。デイ・アクティビティー・センター(Tagesforderungsstatten)も同様である。 また、同法典138条2項によれば、連邦雇用のためのアージェントが、原則的に管轄する職業訓練給付13が支給される。職業訓練手当金に相当する額は、基本額=1年目:月57ユーロ、2年目月67ユーロとなっており、これに追加的な額が注文・売上げに依存して増額される(注14)。工賃は129.59ユーロ(ドイツ全体(注15)、1万5,500円程度)とされる。 作業所の障害者は、労働法規が全面的に適用される「労働者」ではないが、いわゆる「労働者類似の者」であるとして扱われ、労働保護的な規定が部分的に適用される(社会法典IX 138条1項)。つまり、社会法典IX 138条1項によれば、「認定作業所の労働領域にある障害者は、それが労働者ではない場合でも、(…)作業所と労働者類似法的な関係にある」と規定される(注16)。 認定作業所はドイツ全体で671存在し、22万7,000人(うち西の地域:496の認定作業所、184,000人)の障害者が在籍する。約48.5%の人はパートであり(注17)、障害の種別では、知的障害が78.96%、身体障害が3.58%、精神障害が17.44%となっている。 (C)統合のための企業 従業員の最低25%を重度障害者で占める企業、統合のための企業(Integrationsunternehmen)(注18) が、ドイツにおいて注目されている。1998年以来の政府のモデルプロジェクトにより、一般労働市場における常用雇用への編入への橋渡しとして、 「統合のためのプロジェクト(Integrationsprojekt)」(注19)が推進された。2001年6月19日に重度障害者法を他の法律(連邦社会扶助法、年金法等)をすべて一つの社会法典(Sozialgesetzbuch)のなかに挿入する際に、この統合のためのプロジェクトに関する規定が挿入された。 最低25%(最高で50%)重度障害者で占める企業に対して、政府より助成を行うこととなっている。社会法典IX134条によれば、「統合のためのプロジェクトは、調整金を手段として、経営上の助言を含む建設、現代化、出費に関する給付に関して及び、特別な費用に関して給付を行いうる」と規定される。 イギリス等における社会的企業に相当する。かつては、障害者のための学校・学級での修業を終えたら、作業所で就労というのが職業的なルートであった。これは先進各国でみられる現象であり、障害者の権利条約においても改善が求められている。 多くは作業所で雇用され、少数が企業又は官庁において雇用されるのはドイツにおいてもみられ、これを改善しなければならない点でも課題がある。しかし、ドイツでは、こうした状況を克服するため、統合のための政策を進め、その一環として、政府は統合のための企業の創設を促進している。 2007年には、517の統合のための企業が支援を受け、増加傾向にある(2001年250例、2002年314例、2003年365例)。2007年には13,694人が統合のための企業で就労を開始している(これに対し、2003年には4,091人の障害者が社会保険義務のある就労へ移行している)。2007年では、 作業所の障害者と学校修了者のうち、8%が統合のためのプロジェクトへ参加している。障害者を多く雇用している点を除くと、統合のための企業は、市場に根ざした通常の企業と事業形態はほぼ変わらない。筆者が調査で訪れたのは、ホテル、喫茶店、セカンドハンド・ショップ、スーパーマーケットであった。 一般企業と顕著に異なるのは、従業員の40%以上を重度障害者で占める企業に対して税法上の特典も認めている点がある。通常間接税である付加価値税は19%であるが、上の要件を満たす企業の提供するサービスや生産する生産物は、すべて7%の税のみとなっている。これにより、消費者は、統合のための企業のサービスや生産物を7%の税により購入できることになる。 2007年では、統合のための局の支出は4,700万ユーロ(注20)(2003年4,060万ユーロ支出(注21))となっており、雇用率未達成の場合に企業が支払う雇用納付金から支出されている。給付減少の調整のための給付金、不利益軽減のための調整給付金(主に施設・整備の拡充に用いられる)に支出されている。 社会的企業は、第一に、障害者の雇用の場の創出のために役立つ。しかし、これにとどまらず、こうした社会的支出がなされる社会的企業は、第二に、そこで雇用されるすべての者の雇用の安定に役立つ。社会的企業は、作業所、企業に代替し、そして、障害者の雇用の場として第三の道となりうる。社会的企業のための法整備は、障害者の雇用を創出し、その雇用を安定的なものにする可能性が期待されうる。 しかし、雇用率未達成の場合に企業が支払う雇用納付金から統合のための企業とそれに対する給付金制度は主に成り立っていることが、反対に財政的な課題を抱える結果も招いている。バーデンブッテンブルク州では、州の調整金不足のために、統合のための企業の起業が2件行政(統合のための局)から許可されなかったという。 また、統合のための企業も増加しつつあるものの、障害者の失業者を抱え込めるほどの数にはいたってはいない。総需要を増加させることは、失業対策の上では最も重要であるものの、財政的な課題を克服しつつ、そうした社会的な試みを促進していく国や州の課題は今後も続くものと思われる。 (注12)2001年および2002年には年279万ユーロの支出となり、過重な負担となっている(Drucksache 15/4575)。 (注13)開始手続:編入プランを作成(2年間限定、延長なし、40条1項1文)、職業訓練手続:職業訓練(2年間が原則、縮小可能、40条1項3文)と二つに分かれており、助成が行われる。開始手続と職業訓練手続では、労働の対価は不要とされる。 (注14)作業所令12条4項によれば、労働成果が作業所の目的のみに利用されなければならない旨規定される。労働の成果とは、作業所の収入と経営費用をさす(Feldes/ Kamm/ Preiseler/ von Seggern/ Unterhinnginghofen/ Westermann, Schwerbehindertenrecht,9.Aufl.,2007,S.280.)。これとの関連で、労働の成果の70%は、労働の対価に支払う必要がある。その後、作業所は成果に応じた相当な労働の対価を支払う義務がある。対価額は改善されつつあるという。 (注15)Drucksache 15/4575,S.114. (注16)これについては、渡辺絹子「諸外国の『福祉的就労分野』における労働保護法の現状と動向・ドイツ」「福祉的就労分野における労働法適用に関する研究会報告書」92頁(98頁)に同様の記述がある。 (注17)Werkstatten Deutschland,S.52 (注18)従業員の最低25%を障害者で占める企業を統合のための企業と呼び、50%を超えてはならない(社会法典IX132条3項)。 (注19)この政府プロジェクトに限定して検討した研究には、石川球子「ドイツの社会的企業」独立行政法人高齢・障害者雇用支援機構障害者職業総合センター『EU諸国における社会的企業による障害者雇用の拡大』資料シリーズNo.40(2008年)44頁以下。 (注20)Bundesministerium fuer Arbeit und Soziales,Behindertenbericht 2009,S.53. (注21)Drucksache 15/4575.S.102. 5.社会支援雇用対象者などの具体的状況(インタビューより) (1)オランダ (A)DZB従業員評議会代表、男性47歳 20歳で肝臓病を患うが、移植で完治。その後、高齢の両親の世話をするため、就職しなかった。長期失業者としてDZBを利用した後、市に紹介され10年前からDZBで社会雇用。 週36時間フルタイムで就労。分譲マンション(現在ローン返済中)でのひとり暮らし。バス通勤で自宅より約20分間。羽毛布団を縫う仕事をしている。 賃金(手取り)は月額1,400ユーロ。保険料控除で1,250ユーロ。休日は、自分の小型ヨットでセーリングを楽しむ。自動車も所有。有給休暇は年間6週間。賃金(年収)の8%が、休暇手当として毎年5月に支給される。 年金の受給は67歳から。フル年金は、40年勤続。平均年収で年金額は決まる。本人の希望は、DZBに所属しながら、外部で働くこと。(外部企業での時間給が高いと、DZBでの賃金もあがる。) 従業員評議会(OR)は事業所経営について意見を述べ、変更についてはORの合意を得なければならない。OR委員の任期は3年で選挙によって選ばれる。事業所はORに事務所を提供し、OR専属秘書の給料は事業所が負担しなければならない。 (B)DZBからの就職者、女性 ライデン市観光課に勤務中の2002年にストレスにより精神疾患発病。2007年1月WSW審査を受け、2年間の待機後、2009年1月DZBへ。20週間の職業訓練後、2009年8月中等職業教育機関の指導員(コーチ)として就職。 そこで移民にオランダ語と社会学を教えている。15人の移民を担当し、週20時間勤務する。賃金は税込みで月額1,700ユーロ、手取り1,300ユーロである。それに加え、社会保険給付(16時間分)として税込みで月額600ユーロ、 手取りで400ユーロ、あわせて手取り月額1,700ユーロ(健康保険控除120ユーロ)。ローンで購入した分譲マンション(3部屋)に1人で住んでいる。生活費は月に1,000ユーロかかり、ローン返済は月額500ユーロである。 ライデン市のワークショップ委員会(委員は10人)の委員も務めている。2005年から2007年まで自宅で仕事をしていたが、社会的支援もなく雇用につながらなかった。現在の状態には満足している。 (C)サラ財団、女性(社会雇用の対象ではない) 22歳の時、精神障害を発症。市に支援を頼んだが適切な支援をしてもらえず、2年前にサラ財団を紹介された。家族は夫と9歳の子どもがいる。月曜から木曜まで利用しているが、工賃は月に32ユーロである。 生活費はUWVから月額890ユーロの給付があり、建築関係の夫の給料と合わせて賄っている。定期的に精神科に通院し服薬している。 (D)サラ財団、男性(社会雇用の対象ではない) 知的障害があり、学校卒業後サラ財団を希望した。母親と兄弟と一緒に生活している。財団までは送迎がある。月曜から金曜まで利用して、工賃は月に40ユーロである。UWVの給付を受け、その他AWBZの給付もある。 (2)デンマーク (A)T氏(千葉忠夫氏が理事長をしているボーゲンセの国民高等学校で、1日4時間の施設修理等管理人職務をフレックス・ジョブで就業)。 46歳、ドイツ人、結婚してデンマークに。元々は塗装工、19歳で車事故に遭ったが、5年間は普通に仕事をしていた。滞在許可証を得たかった。1998年から、オーデンセ市に居住し、中途障害脳疾患センターに通った。 ジョブ・コンサルタントから、フレックスジョブを紹介された。通常は障害年金を受けるが、年金生活になるのはいやだった(10年間のデンマーク在住で、年金資格を得る。初めの仕事は、農機具会社の庭師で、1時間から初め、徐々に4時間まで増やした。 その後、近年の経済不況でクビになり、フレックス失業給付を受給。ジョブセンターで、当校を紹介された。この仕事は自分で探したが、ジョブセンターのコンサルタントを介して、フレックス・ジョブを申請した。 現在、管理人業務(修繕等)をしており、就労能力30%と判断された。 通常は1日4時間(8:00〜12:00)、たまに5時間働いている。あれをやれ、これをやれと言われると、混乱してダメになるが、ここの職場は自分のペースでできるからいい。 自分はドイツ人だから、勤務時間がはっきりしていた方がいい。仕事を終え、帰宅してからは、家事手伝いや犬の散歩などでリラックスしている。 給与は、当初、月約32万円 現在40万円(3分の1は使用者である学校が負担、3分の2は自治体負担−この65%が国から償還される)で、経済的には十分である。車も家もある。車は事故(19歳)の賠償金で購入した。 ドイツでなくデンマークでの生活を選んだのは、フレックス・ジョブ制度があることが大きい。精神的にも、経済的にもいい。 特養ホームの労働者や家事労働者を組織している労働組合に加入している。労働組合は、失業保険基金を運営(フレックス失業給付のために、毎月保険料を1万円弱払っている)しているし、 職場で問題あったときにフォローしてくれる。専門のケースワーカーや年金等の専門家もいる。自治体より頼りになる。組合費は月300クローネ(約5,000円)。 (B)Sさん(同国民高等学校で、事務補助職) 1995年、出産後に体調を崩した。出産前は税関係の事務をしていた。産休(1年)と育児休業(1年)を終えた時、ケースワーカーに相談して、紹介されて職業訓練校に通う。そこでフレックス・ジョブを知った。 2001年から9年間、当校近辺の国民高等学校で、フレックス・ジョブとして、学校事務をやっていた。1週間22時間勤務。起きてから調子が出るまで時間がかかるので、9時半から4時間勤務としていた。 2009年から当校で勤務。電話応対や書類作成を行なっている。「就労能力50%」と判定(勤務時間は、以前の職場と同じ)。仕事後、家に戻ってからは、まず1時間静かにしている。その後ビデオを見たりしてから、食事の準備をする。子供2人。他に夫の連れ子2人がいる。 大切なのは、仕事を楽しむことだ。フレックスジョブは、身体的・精神的な部分を補ってくれる。障害年金の受給は可能だが、年金受給者になりたくない。年金受給者という「枠」に入れられてしまう感じがする。 給与は月42万円(2分の1は使用者である学校が負担、2分の1は自治体負担)。労働組合は、デンマーク・オフィスワーク組合、組合費は月240クローネ(約4,000円)。 年に1回、自治体の監査(インタビュー)があり、仕事がうまくいっているかどうかを確認する。就業能力の変化についてはチェックしない。 第3部 視察メンバーの感想・意見 EU諸国(フランス、オランダなど)における社会支援雇用制度などの動向 松井 亮輔 大きな流れとしては、(1)年金や社会扶助などの給付から就労へ、(2)ケアから就労へ、(3)施設内就労から施設外(とくに企業内)就労、さらには一般就労への取り組みの強化が見られる。 その背景としては、インクルーシブな社会を実現する上で、障害者の職業参加の重要性がつよく認識されるようになったということもさることながら、増大する社会保障への財政負担の軽減が 各国とも共通の重要な政策課題となっているという側面にも留意する必要がある。(たとえば、6月6日に予定されているオランダの総選挙(第2院選挙)では、年金支給年齢の65歳から67歳への引き上げなどが争点となっている。) 各国共通に見られる社会支援雇用制度の特徴は、つぎのとおり。 (1)一般雇用と社会支援雇用が制度的に関連づけられていること。 (2)稼働収入と所得保障がリンクされており、法定最低賃金が所得保障の最低基準となっていること。 (3)障害の有無にかかわらず、労働市場との距離をベースに就労支援が実施されていること。 (4)社会支援雇用の定員枠との関連で、待機者の増加と待機期間の長期化が課題となっている一方、待機者も含む、社会支援雇用者数の削減が政策課題となっていること。それらの課題解決には一般就労への移行をさらに促進する必要があるが、種々の事情でその移行はあまりすすんでいないこと。 (5)制度改革に向けてパイロット・プロジェクトなどが実施されていること。制度改革の目的は、社会支援雇用制度の効率化や適正規模化などで、欧州障害フォーラム(EDF)に加盟する障害当事者団体の全国組織も含め、各国とも社会支援雇用制度を維持することでは一致している。 この制度改革に関連してオランダで課題となっているのは、労働能力が低い障害者への所得保障の仕方、つまり、(A)最低賃金との差額を事業主に支給することで、最低賃金以上の賃金を保障するか、あるいは (B)最低賃金との差額を障害者本人に手当などとして給付するか、である。政府や経営者団体は、(B)の方式をよしとしているが、障害者施策に関する政府の諮問機関である全国障害者協議会や労働組合は、 (A)の方式を支持している。経営者団体が、(B)の方式を支持するのは、(A)の方式は、予算の関係で減額される可能性があることを危惧してのこと。 底流にある連帯の思想 上野 博 我々の目指す日本の社会支援雇用の原型となるであろう欧州諸国、特にフランス、オランダにおける障害者雇用・就労の政策面および実践面の様々な取り組みを見聞してきた。調査に先立ち事前学習会を数回実施し、各参加者も自主学習を重ねたつもりであったが、 法制度の違い、また背景にある社会的価値観の違いによるものか、よく理解できたものもあり、帰国後さらに疑問が増したこともある。短時間の訪問で、また通訳を介しての会話ではおのずと限界はあるのだろう。今後は文献やネット上にある情報でさらに理解を深めていきたいと思う。 調査を終えて帰国と同時にギリシャの財政問題に端を発する欧州信用不安が深刻化し、共通通貨であるユーロは大暴落をした。一気に問題が表面化した様相だが、2008年の世界金融不安を機に欧州諸国の財政も徐々に悪化していた。 フランスにおいてもオランダにおいても厳しい財政環境は、社会保障予算や障害者雇用予算の削減や引き締めを生じさせたとのことであった。しかしこのような逆風下にあってもなおかつ障害者の就労を支える法制度は重厚であり、 特に日本の福祉的就労と呼ばれる制度にある障害者への公的支援の比較においては、今なお彼我の差は大きいといわざるを得ない。数十年かけてもなかなか埋まらないこの格差の底流には、国家財政や予算配分等に優先する 障害者等に向ける連帯の視線が厳然としてあるのではないかと感じずにはいられなかった。短期間の訪問ではあったが印象に残ったことを以下に述べる。 1.2005年法のインパクト(フランス) 2005年2月11日に成立した、「障害者の権利と機会の平等、参加、市民権に関する法律」は障害者関連政策に大きな改正をもたらせた。2000年のEC雇用均等枠組指令の置換や当時すでに議論の渦中であった国連障害者権利条約の内容を包含した、障害者の権利に着目した改正であった。 重要な改正点としては、まず「障害補償給付(PCH)制度」創設があげられる。障害の結果生ずる特別な費用を国家が補償するもので、ホームヘルプサービス、補助具、住宅や自動車の改修等が対象となる。ホームヘルプサービスでは、配偶者や親(子)もヘルパーとして認められ報酬が支払われる。 また、公共交通や建築物のアクセシビリティについても法改正から10年間、すなわち2015年までに相当の改善を図るとしている。 障害者雇用・就労関連政策にもたくさんの変更を及ぼしたが、代表的なものを以下にあげる。詳細は各国報告の部にあるので割愛する。 (1)適切な措置(障害者権利条約の合理的配慮)の導入 (2)障害者雇用義務の強化 (3)福祉的就労対象者への保障報酬の支給 (4)労働能力判定、労働の場の決定、所得保障施策である成人障害者手当(AAH)の支給決定機関の一元化 2.進まぬ福祉的就労から一般就労への移行(フランス) 日本の福祉的就労に類似するESATには知的障害者を中心に約11万人の障害者が働いている。最低賃金は適用されず、労働法も完全には適用されないが、最低賃金の55%〜110%を保障される保障報酬を受け、年次有給休暇、出産休暇、育児休暇、介護休暇等、また労働安全衛生法が適用されている。 保障報酬の大部分は国の賃金補助による。賃金補てんとは別に職員人件費等一般経費を対象に国から運営費が交付される。このほか企業からESATや障害者を多数雇用する適応企業(EA)への役務の発注を障害者雇用率にカウントするという、フランス独特の「みなし雇用制度」に基づく優先的な仕事の受注もある。 かなり分厚い補助制度であるが、この制度の中で経営努力に対するモティベーションが働くのか、また、利用者に対して希望を聞き取り、積極的な就労移行支援を行なっているのかどうか、 この点は十分聞き取るだけの時間がなかった。ESATから一般就労への年間移行率は約1%と極めて低率である。一見したところ利用者の中には一般就労が十分可能と思える人も多数いた。 少なくとも訪問したESATの責任者の話しの内容からは、積極的就労移行支援に取り組んでいるとは思えなかった。居心地がよいということなのだろうが、表現を変えれば本人の希望する人生設計が十分担保されているのかどうか、 やや心配なところである。次の機会があればこの点はぜひじっくりと調査してみたい。もし日本の福祉的就労事業所にこれだけの公的支援が投入されれば、どれだけの事業が展開できるか、と思わず想像を膨らませてしまった。 3.変わりゆく伝統的社会雇用事業所(ワークショップ)の姿(オランダ) 就労する障害者を労働者として見なし、最低賃金以上を保障する、オランダの伝統的大規模社会雇用事業所が今変化を余儀なくされている。近年オランダ政府は増え続ける社会保障予算を警戒し、給付の削減、就労の促進を意図した法制度の改正に取り組んでいる。 この変化を受け、約9万人の障害者が就労する社会雇用事業所においても、従来中心であった事業所内製造事業に従事する人数を減少し、企業や官公庁と業務契約し、障害者が先方に出かけていって仕事をする事業所外就労、  あるいはジョブコーチ等専門家の支援を受けながら企業等の職場で仕事をする援助付き雇用の比率を高めることが、経営的優先課題とされている。事業所外就労、援助付き雇用、どちらにおいてもそのまま就労先企業等での一般労働契約に発展する可能性を追求したものである。 自治体立の事業所では、事業所外就労の従事者の人数増加率が経営評価のポイントとなっているところもあった。所属は社会雇用事業所に置きながら、可能な障害者はなるべく一般の職場での仕事に従事するメインストリーミング化をさらに促進する流れである。 どの事業所も内部生産ラインは徐々に減らしていく方向で、現在自己所有している土地や建物は売却し、同じ物件を再度リースで契約しダウンサイジングを図ることを計画しているところもあった。 現在社会雇用就労者と待機者数合わせて11万人を10年後の2020年には5万人に減少させたいというのが国の計画であり、実現しているかどうかは別にしても10年後の社会雇用事業は現在とは異なる姿を見せていることであろう。 社会雇用の変化とともに、もうひとつ「能力に応じて働く(Work to Capacity)」というオランダの就労促進の国家方針を如実に示す法改正があった。2010年1月1日より若年障害者法(Wajong)が改正され、 同法の対象者も原則的にはUWVで職業能力判定を受け、可能な場合は能力に応じた労働形態で働くことを優先するようになった。従来同法の対象者は最低生活保障としての給付が支給され、働いてもよいし、働かなくてもよいという扱いであった。 たしかに以前は就労するとその分給付額が削減されるという就労意欲を抑制する面があったが、これを改正し、新たな就労控除も設け就労インセンティブを維持するようにした。法改正に基づき、政府は補助制度を設け若年障害者雇用を促進するプロジェクトを推進している。 4.就労との距離(オランダ) オランダ社会雇用事業の大きな特徴は、対象者は障害者だけでなく、長期失業者、非熟練労働者、元受刑者、外国移民等様々な社会的ハンディキャップを抱える人たちである。それぞれ根拠となる法律は異なるが、同じ職場で同じように働いている。 2008年社会雇用法改正に基づき設置されたデ・フリース委員会は、今後の社会雇用のあり方について報告書を作成し政府に答申した。その中で今後は根拠法に関わらず、つまり社会的ハンディキャップの内容に関わらず、 一般労働市場との距離がどのくらいあるかという点に着目し、これに対応した就労支援をすることが提案されている。賃金面においても、現在同じ事業所で働いている場合、障害者は最低賃金の125%を平均して支払われているが、 長期失業者等の平均は最低賃金の80%〜90%である。同答申は、今後新たな社会雇用事業の対象者には、一律最低賃金の80%〜100%を適用するというものである。これについては障害者団体より不満の声が上がっている。 また、障害者と長期失業者等との労働復帰力の違いを指摘する声もある。現在試行されているパイロット・プロジェクトの結果に基づき、早ければ4年後に新たな法改正がある。 5.保護的就労への評価 雇用・就労関係者以外には、意識的に障害者の保護的就労について見解を求めた。フランス身体障害者協会(APF)、欧州障害フォーラム(EDF)、欧州障害者サービス事業者協会(EASPD)、オランダ疾病・障害団体協議会(CG-Raad)等であるが、 一様に基本は通常労働市場における就労が望ましいが、それが困難な障害者に対しては保護的就労の場が必要であるとの見解であった。各国政府に対してはできる限り通常労働市場での就労を促進する法制度の整備を求めるが、合わせて通常労働が困難な人たちへの十分な制度の確保も求めた。 しかし、保護的就労の場においても、労働条件は可能な限り通常労働と同一にすること、通常労働市場への就労移行支援を常に行なうこと、等のメインストリーム化に向けた支援は不可欠と力説した。 デンマークから学ぶべきこと 岩田 克彦 1.政策理念 デンマークでは、政策分野ごとに政策理念を明確にしている。障害者政策の場合では、個人の持っている障害(disability)に障壁(barrier)が加わって 社会的障害(handicap)が生じているのであり、 個人の持っている障害を補完・補てんするもの(compensation)を通じて、機会均等(equal opportunity)が実現するとし、(A)補てん・埋め合わせ(Compensation)の原則、 (B)社会各部門の責任(Sector responsibility)の原則、(C)連帯(Solidarity)の原則、(D)機会均等(Equal opportunity)の4つの原則を提示している。日本でも、こうした分かりやすく、国民全体にアピールする政策理念を打ち出すべきであろう。 2.障害者団体の取組み DH(デンマーク障害者団体連合)では、3,000人を超えるスポークスパーソン(広報担当者、多くが障害者本人ないしその親)を指定し、国・自治体との協議や啓発活動に備えている。 また、DHの運営委員や国や98の自治体に必ずある障害審議会メンバーの選任、審議会での重点審議事項の選定等で、団体間の調整を、障害者団体間の粘り強い対話の精神で行なっている。 DH事務局長等からは、徹底的対話がデンマークの伝統で、障害者施策を推進するためには、障害者団体の団結が非常に重要であると強調された。日本においても、障害者団体の一層の団結及び日常活動の体制強化が望まれる。 3.フレックス・ジョブの検討 障害者の就労形態として、一定の保護環境を保障しやすい施設での就労が今後とも必要であろう。しかし、ノーマライゼーション、施設から地域社会へ、メインストリーミングの観点から考えると、 民間企業、公的部門、自営に関わらず、通常の就業の場で、使用者、障害者本人、自治体の三者合意に基づき、その個人状況に合わせた柔軟な就労条件(短時間就労、調整された就労条件、 限定された職務要件等)での仕事を提供するデンマークのフレックス・ジョブは、筆者には、今後の障害者就労の王道を行く基本モデルの一つと思われる。 特に、精神障害者対策として効果が高いようで、日本でも積極的に検討する必要があろう。但し、通常の労働条件での一般労働市場での就労インセンティブを低下させない工夫が大切である。 <参考資料> 1.国内関係資料一覧 〔フランス〕 永野 仁美 フランス:「福祉的就労」分野における労働保護法の現状 福祉的就労分野における労働法適用に関する研究会報告書 2009 永野 仁美 フランスにおける障害者への所得保障 季刊労働法2009春 労働開発研究会 永野 仁美 フランスにおける障害者雇用政策 季刊労働法2009夏 労働開発研究会 石川 球子 欧米における障害認定制度 資料シリーズNo.49 2009 独立行政法人高齢・障害者雇用支援機構 障害者職業総合センター 大曽根 寛 諸外国における障害者雇用施策の現状と課題 資料シリーズNo.41 2008 独立行政法人高齢・障害者雇用支援機構 障害者職業総合センター 大曽根 寛 フランスの新しい障害者所得保障政策 ノーマライゼーション4月号 2007 〔オランダ〕 松井 亮輔 オランダのソーシャルワークショップ再訪 ノーマライゼーション5月号 2004 廣瀬真理子 オランダ:「福祉的就労」分野における労働保護法の現状 福祉的就労分野における労働法適用に関する研究会報告書 2009 2.国際関係資料および視察先などで入手した関係資料一覧 〔フランス〕 Disability and Employment The French Model 2009,FEGAPEI Agefiph Website Briefing Session on Employing Persons with Disabilities, Thibault Lambert APF Pamphlet 〔オランダ〕 Annual Progress Report 2009 “The Netherlands in the context of the Lisbon Strategy” Ministry of Social Affairs and Employment, The Netherlands Website 〔EUレベル〕 Annual Report 2008/2009 European Disability Forum EASPD Thessaloniki Declaration “Position Paper on Employment for Persons with Disabilities”2009 Annaul Review Workability Europe 2008 〔デンマーク〕 (1)フレックスジョブ、障害者就労全般 ○全国社会福祉協議会全国社会就労センター協議会『第7回全国社会就労協議会海外障害者雇用・就労事情視察研修セミナー報告書』、2005 ○片岡豊「デンマークにおける障害者の「自立」の考え方 −政治と倫理」、『海外社会保障研究』、Spring 2009,No166 ○松岡洋子「第6節 デンマーク」、『障害者の福祉サービスの利用の仕組みに係る国際比較に関する調査研究事業報告書』、2009.3 ○Kirsten Brix Pedersen,‘What is Denmark doing to stop people ending up on Disability pensions?’,“Disability and employment −lessons from reforms−”,Finnish Centre for Pensions, Reports 2010 : 4 ○NABANITA DATTA GUPTA AND MONA LARSEN,“Evaluating Employment Effects of Wage Subsidies for the Disabled − the Danish Flexjobs Scheme”,FEBRUARY 2008 ○OECD,“Sickness,Disabolity and Work: Breaking the Barriers,Vol3”,2008 ○OECD,“OECD Thematic Review on Reforming Sickness and Disability Policies to Improve Work Incentives,Country Note−Denmark”,2007.9 ○Bent Greve,“The labour market situation of disabled people in European countries and implementation of employment policies: a summary of evidence of evidence from country reports and research studies”,2009.4 ○The Danish Government ,“Denmark’s National Reform Programme−First Progress Report−”,2009.10 ○Steen Bengtsson,“ANED country report on the employment of disabled people in European countries , Denmark” ○MISSOC,“(Re)integration of people with disabilities into employment”,2009 ○‘Handcap og job−der kan lade sig gore’,‘Disability and job−it is possible’(April 2009) ○SFI“Beskyttet Beskaeftigelse”(Sheltered Employment”) ○HKI 年次報告 The Consolidation Act on Active Social Policy no.707 of 29.9.99(Flex-job)(light job) The Consolidation Act on Compensation of the disabled no.55 of 29 January2001.(雇用補助金) The Consolidation Act on Active Social Policy no.707 of 29.9.99.(Rehabilitation)Beneficiaries : Inactive persons facing important difficulties (disabled, socially excluded, refugees). The Consolidation Act on the Flex Allowance no.283 of 25 April 2001 (2)障害者団体合意形成、政策決定プロセス、障害者政策理念 ○“Danish disability policy”,DCH,2002 ○“The principles of Danish Disability Policy”,DCH,2006 ○DH,PP(組織構成、more than 3,000 spokespersons ) ○DCH年次報告書(予算等) (3)その他 ○岩田克彦「デンマークのフレクシキュリティと労働関連制度」、『経営法曹』第166号、2010.9 ○Steen Bengtsson,“ANED country report on the implementation of policies Supporting independent living for disabled people”,2009.5 ○Steen Bengtsson,“ ANED country report on the social protection of disabled people in European countries , Denmark” ○EU Commission,“ Situation of disabled people in European Union : the European Action Plan 2008−2009”,2007.11 ○EU Commission staff working document, Annex to the above paper ○ECOTEC,“Basic Information Report(BIR) : Denmark 2004”(参考)「フレックス・ジョブの許可証」〈ボーゲンセの国民高等学校での施設管理人の場合〉 3.ヨーロッパ社会支援雇用調査日程表 (1)フランス・ベルギー・オランダグループ 期間:2010年4月11日(日曜)〜30日(金曜) 日(曜日)訪問国 訪問団体 宿泊 1 11日(日曜)フランス パリ到着 パリ 2 12日(月曜)フランス ベルサイユ市へ移動、Le Encontre 訪問。本部で概要説明。作業所、デイケアセンター、住宅等見学 パリ 3 13日(火曜)フランス 午前:ESAT Jean Pierrat 訪問。 午後:MDPH75(県障害者センター)訪問 パリ 4 14日(水曜)フランス 午前:AGEFIGH(障害者職業参入基金管理運営機関)訪問。 午後:資料整理 パリ 5 15日(木曜)フランス 午前:FEGAPEI(障害者組織運営協会全国連盟)訪問 午後:適応企業APY訪問 パリ 6 16日(金曜)フランス 午前:APF(フランス身体障害者協会)訪問 午後:Pole Emploi,Cap Emploi 訪問 パリ 7 17日(土曜)フランス 自由行動 パリ 8 18日(日曜)ベルギー パリ→ブリュッセル移動 ブリュッセル 9 19日(月曜)ベルギー 午前:EDF(ヨーロッパ障害フォーラム)訪問 午後:BDF(ベルギー障害フォーラム)訪問 ブリュッセル 10 20日(火曜)ベルギー 午前:EASPD(ヨーロッパ障害者サービス事業者協会)訪問。 午後:EC(欧州委員会雇用・社会問題・機会均等局障害者統合ユニット)訪問 ブリュッセル 11 21日(水曜)ベルギー 午前:保護工場DYMKA訪問 午後:WE(ワーカビリティ・ヨーロッパ)訪問 ブリュッセル 12 22日(木曜)オランダ 午前:ブリュッセル→アーメスフォート移動 午後:社会保険運営・就労事業機関(UWV)訪問 ハーグ 13 23日(金曜)オランダ 社会雇用事業所DZB訪問 全国障害者協会会長ラオリエ氏(国会議員)と面談 CEDRIS(オランダ社会雇用事業所連合)概要説明 ハーグ 14 24日(土曜)オランダ 午前:レオ・コイマン氏(前オランダ社会雇用事業所連合事務局長)面会。移動。 オースタービーグ 15 25日(日曜)オランダ 自由行動 オースタービーグ 16 26日(月曜)オランダ 午前:サラ財団訪問 午後:社会雇用事業所ブレシック・ハーフ訪問 オースタービーグ 17 27日(火曜)オランダ 午前:CG-RAAD(オランダ慢性疾病・障害者協会)訪問。 午後:社会雇用事業所WNK訪問 ハーレム 18 28日(水曜)オランダ 社会雇用事業所PASWERK(パスワーク)訪問 ハーレム 19 29日(木曜)アムステルダム発 20 30日(金曜)成田着 ※調査日14日(フランス5日、ベルギー3日、オランダ6日)、自由行動日2日、移動日4日 (2)デンマーク  期間:2010年4月6日(火曜)〜15日(木曜) 日(曜) 訪問団体 1 6日(火曜)コペンハーゲン到着 2 7日(水曜)午前:障害者均等機会センター(CLH) 午後:グリーヴ・ロスキレ大学教授(Prof. Bent Greve, University of Roskilde) 3 8日(木曜)午前:ボーゲンセの日欧文化交流学院(国民高等学校)千葉忠夫氏(理事長)、フレックス・ジョブ就労者2名 午後:デンマーク障害者団体連合オーデンセ支部長メーリング氏Ms. Birthe Maling DH-Odense ノルフィン・ジョブセンター ドレイマン氏(フレックス・ジョブ担当ジョブコンサルタント) 4 9日(金曜)コペンハーゲンのジョブセンター、職業学校(日本では職業高校と職業訓練校と一緒になった施設) 5 10日(土曜)コペンハーゲン図書館 6 11日(日曜)自由行動 7 12日(月曜)午前:LO (デンマーク労働総同盟)ソリスト氏(コンサルタント) 夕方:Bank-Mikelson 財団  1)千葉忠夫氏(理事長、日欧文化交流学院(国民高等学校)院長、『世界一幸福な国デンマークの暮らし方』(PHP新書、2009)著者)  2)Mr. Frode Svendse,社会省事務次官補  3)Ms. Sytter Kristensen, LEV(知的障害者親の会)理事長  4)Mr. Hasse Jacobsen,精神障害者対策組織副理事長  5)Ms. Birgit Kirkebaek元オスロ大学教授(バンクミケルソン研究者)  6)Mr. Johan Hansen,元教育省障害児教育部長 8 13日(火曜)午前:デンマーク社会調査研究センター(SFI)ペーダーソン雇用・社会統合研究部門長 午後:DH(デンマーク障害者団体連合)ピーターソン事務局長 Mr. Poul Erik H. Petersen 9 14日(水曜)コペンハーゲン発 10 15日(木曜)成田着 4.事前学習会開催状況 ☆第1回 2009年8月3日「フランスにおける保護雇用・福祉的就労」講師 永野仁美(上智大学法学部地球環境法学科准教授) ☆第2回 2009年9月24日「ドイツ障害者雇用」講師 高橋賢司(立正大学法学部専任講師) ☆第3回 2010年1月22日「障害に関わるEUの法制度と就労・保護雇用」講師 引馬知子(田園調布学園大学准教授) ☆第4回 2010年2月23日「オランダの障がい者雇用と社会保障政策」講師 廣瀬真理子(東海大学教養学部教授) 5.調査団員名簿 氏名 所属 参加日程 訪問国 松井亮輔(団長)法政大学名誉教授 2010年4月13日〜4月30日 フランス ベルギーオランダ 岩田克彦 職業能力開発総合大学校教授 2010年4月7日〜4月14日 デンマーク 高橋賢司 立正大学 専任講師 2009年8月 ドイツ 須貝寿一 社会福祉法人山形県コロニー協会常務理事 2010年4月11日〜4月23日 フランス ベルギー 斎藤なを子 社会福祉法人鴻沼福祉会常務理事 2010年4月11日〜4月26日 フランス ベルギー オランダ 上野 博 きょうされん国際交流アドバイザー 2010年4月11日〜4月30日 フランス ベルギー オランダ ※高橋賢司の調査は2009年に実施されたものであり今回の助成対象調査ではない 6.社会支援雇用研究会名簿 氏名 所属 備考 朝日雅也 埼玉県立大学教授 荒木 薫 日本障害者協議会 井上忠幸 社会福祉法人東京コロニーコロニー中野事業所長 上野 博 きょうされん国際交流アドバイザー 事務局長 勝又和夫 日本障害者協議会代表 川久保陽子 きょうされん事務局次長 斎藤なを子 社会福祉法人鴻沼福祉会常務理事 須貝寿一 社会福祉法人山形県コロニー協会常務理事 高橋賢司 立正大学専任講師 遠山真世 立教大学助教 内藤 晃 社会福祉法人光明会CEO(総括施設長) 中谷桂子 日本障害者リハビリテーション協会 藤井克徳 日本障害者協議会常務理事 副代表 堀込真理子 社会福祉法人東京コロニー職能開発室事業所長 増田一世 社団法人やどかりの里常務理事 松井亮輔 法政大学名誉教授 代表 丸山 汎 産経新聞社 岩田克彦 職業能力開発総合大学校教授 オブザーバー (2010年10月現在) EU諸国における社会支援雇用調査報告書  発行日:2010年11月 発行:日本障害者協議会 社会支援雇用研究会 162−0052 東京都新宿区戸山1丁目22番1号 日本障害者リハビリテーション協会内 電話 03−5287−2346 FAX 03−5287−2347 印刷:社会福祉法人山形県コロニー協会 山形福祉工場 この調査は社団法人ゼンコロのご助成をいただき行いました。