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アリ オリ ハベリ イマ ソ ケリ

2000/10/07 更新

(楽譜出版社勤務時代の社内報に掲載)



 天気がいいのは気分がいいが、カメラってのは重いものだ。おまけに三脚もかついでいるのだからなおさらだ。どこか適当な所をテキトーに選んで早いとこ片付けよう。きっとビールがうまいだろう。

 オレ、ホッタガクフの遅れてきたニューフェイス。編集の見習いをやっている。シネクラブとスキー部に入っているらしい。と、ある日、石川さんがやって来た。「どうだい」と言う。オレは一瞬思った、ウマ。だが、ウマは正願地さんだ…そうか、帰りに一杯ってコトか。一も二もなくうなずいたところ、「じゃ、頼んだよ」。紙切れを置くなり行ってしまった。

 ン? 頼んだよ? 何の件だろう、とめくると「写真クラブ」

 ・・・ナンダ宴会か、3月中に予算を使い切ろうって腹だろう、つまり、幹事を「頼んだよ」って件だ。が、それにしても、オレ、せいぜい坂の途中のヤキトリ屋くらいしかしらない。あそこを借り切るとして「最初はビ−ル」と高野さん、「タン・ハツ塩で」と中島さん・・・・・・・・・

 ・・・「道」。ホウ、あの店、案外な名前だね、の中にまぎれこんできた「キャビネ」「八切」「六切」。ナンダ、コレは、話が違う。オレは石川さんを追いかけて、一番決定的な言い逃れを言った。「ボク、カメラ、モッテナインデス」。「あ、いいよ、貸すから」・・・オレは二の句がつげなかった。

 寒い、それにしても寒い。さっきまでの汗が、風にさらされてかじかんでくる。ところがオレは待っているだけ、ただひたすら待っている。カメラってのが、こんなにも待ちくたびれるものだったとは!

 実はオレ、写真など撮った事がない。新婦旅行の写真もない。女房は、写真を撮られたら魂を盗られると思い込んでる先祖返りのホッテントット並みの女だが、さすがに景色だけは写したがった。カメラをせがまれた。金もアテもないのはともかくとして、ここで甘やかしたら孫の代まで悔いを残す。根が単純な女、「忘れたら、また来ようよ」の一発でカタヅイタ。

 が、今度ばかりはそうもいかない.石川さんには愛三倉庫の帰りハンバーグ定食をゴチソーになった、これからもあることだ。坂の途中や馬場の吾妻でもお世話になる予在だ。歌舞伎町の勇駒という話もある。こうなったらヒラメキで勝負、「アリの道」。

 という訳で、オレは角砂糖を探した。で、いつものように「オイ女房、買ってこい」と言いたいところだが、とっぴな女。砂糖→写真→新婚旅行と連想されちゃかなわない。「私、忘れちゃった、また連れてって」。そのセリフが見えるようだ。

 てなわけで、オレは昼メシを角のパン屋で済ませることで貯金していたお金で、ウマソーなやつを手に入れた。今度はカメラ、そこで会社の写真事業部。「そォ、いいけど、いつかな? 〆切り日には大堂さんが使うことになってるから」

 数日後、バカチョンを手にしたオレは箱根山。この辺は編集長のナワバリだが、まだ一週間前、当分来ないだろう。オレは砂糖をポンと置いてカメラをセットした…が…来ない…全々近寄らない…あいつら近目じゃなかろうか、オレは箱ごとぶちまけて…4         0分

 アリ! クロヤマアリだ!! ガキの頃、踏んずけたり分解したりしたやつだ!!! どれを見ても昔と同じ顔をしている。進歩も個性もないやつらだ。が、いいところもひとつある、ともかくもネタを提供している。

 やつらはデカい食い物にぶちあたると加勢を呼びに巣に戻る。ルートは匂いや地形や光の方向で覚える。で、大軍引き連れてやって来る訳だが、そこでオレのカメラ登場、シャッター開放で待ち構える。さすれば、地面を横切る黒い影、アリも積もれば川となる、「道」が浮かび上がるって寸法だ。

 やって来た。ゾロゾロウジャウジャやって来た。大量にぶちまけただけあって、敵さんも大がかりだ。せっせと運んでいく。ワムフム、こうして見るとアリもけっこう可愛いいもんだ、けなげなのが実にイイ。

 風がそよいだ。やわらかい日射しだ.眠っていたらしい。イイ気分だ。

    空青く 小鳥さえずり

    樹木若葉に萌え そして

昔のオレみたいなのがひたすらアリを踏んずけていた。


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