「視覚障害者のためのパソコン体験連続講座」
今回のお題は、初めてパソコンに触れる人が入力方式を選ぶにあたって
考慮に入れたほうが良いことを、ひとこと、ふたこと
2002年5月20日 更新
2001年8月26日(日)、「視覚障害者のためのパソコン体験連続講座」の2回目を行なったわけですが、その前日の準備会で、初めてパソコンに触れる人が文字の入力方式を選ぶにあたって考慮に入れたほうが良いことを話しておいたほうがいいということになり、急遽こんな感じでまとめたものを発表してみました。 これらは、私の中では“ある程度の結論”になっておりますが、“一定の結論”までは致っていない、私が接して来た経験からのものでしか無いという限界の中のものですので、何らかの研究などで違う視点を与えてくださる方がおりましたら、何とぞ何とぞご助言をお願いします。たとえ助言といったごたいそうなものでないにしても、私はこんな風に説明しているヨといったものでも歓迎です。ご一緒に、正しく、かつ分かりやすい説明を見つけてみたいですね。 入力方式の神話「パソコンやるならローマ字入力」という神話があります。実は、わたくし。去年の春と秋に栃木に1ヵ月間出張して、例の「IT講習」(日本国民12時間いっぺんこっきりでインフォメーションテクノロジーを享受できるようになってねパソコンバラまき)の講師をしていたんですが、その中には当然日本語入力というのがあるわけです。パソコンで日本語を入力するとなると、一人一人が使うパソコンをローマ字入力かかな入力のどちらかに設定しなくてはいけないので、講座の最初に聞くんですね。「どちらでやりますか?」と。そーすると、かなりの人がローマ字入力を希望するんです。 なんて話の前に、そもそも入力方式って何ですか?ですね。 最初にお堅いハードな話お堅いと言っても頭の中がコチコチというほうではなくて、物体としてのパソコンのキーボードを用いたとき、さわる部分(堅いですよ)が全部か一部か、という話(単なる前置きです)。 キーボードとは、押すと反応するキーが乗っているボード。楽器のほうのキーボード(鍵盤ですね)で、例えばスティーブン・スピルバーグ監督の映画『未知との遭遇』だとソーラーファー(オクターブ下の)ファードーと鳴ります。同じようにパソコンでは、キーを押すとドレミならぬABCやあいうえおの表示となる色々いっぱいのキーが乗っています。 その乗っているキーをフルに、つまり全部用いるのか、6箇所のキーだけを用いるのか、の違いがありまして、フルに用いるほうを、フルキー入力。6個所のキーを用いて点字を入力するほうを6点入力と言います。 そして、このフルキー入力には、ローマ字入力とかな入力があり、6点入力のほうにも、かなだけを入力する6点入力と漢字の入力も出来るように考案された6点漢字入力があります。 あ、今ここで、ローマ字入力とかな入力と言いましたが、これはABCを入力するのがローマ字入力で、あいうえおを入力するのがかな入力という意味ではありません(分かってもらうのに一苦労の表現なんです)。 かなや漢字を入力するときに、いったんローマ字キーを押したものが平仮名として表示され、それをそのまま平仮名として使う、あるいは片仮名や漢字に変換して(置き換えさせて)から使うものがローマ字入力。 かなを押したものが直接平仮名として表示され、それをそのまま平仮名として使う、あるいは片仮名や漢字に変換して(置き換えさせて)から)使うのがかな入力なんですが、聞いているだけで混乱するでしょう。喋っているほうもそーです。これについては、また後で説明します。 では、6点入力のほうはどうかと言いますと、かなだけを入力する6点入力は、これまで6点点字に馴染んできた人なら(指の置き方が逆ハの字から横1列になる方式もあるので多少の慣れは必要ですが)比較的覚えやすいと思いますので、選んでみてもいいでしょう。 それではもうひとつの6点漢字入力はと申しますと、これは6つの点を漢字コードに振り分けて漢字そのものを直接入力していく方式です。直接入力するだけあって、フルキーを用いたほうの入力では必要とした変換という作業がありませんから、その分スピーディーです。間違った変換の心配もありません。 但し、これまでの盲学校の教育の中では、漢字に関する教育は十分なものではありませんでしたので、この6点漢字入力方式は、漢字に関するある程度の知識があることが前提となります。 じゃ、いったい何を選べば良いの?どの入力方式を選ぶのかの第一ポイントは、やったことがあるもの、慣れているものがあるかどうか?です。 以前であっても慣れているものがあるのなら、そのままどうぞ。これまでパソコンで入力してきた方式があれば、取りあえずは、それを選んでおきましょう。 では、今回が初めてという場合。その場合は、フルキー入力をお奨めします。 さて、そうなると、ローマ字か、かな入力か?ここで最初の設問に戻るわけです。 「パソコンやるならローマ字入力」、「ローマ字入力は早い」。これって本当なんでしょうか? ローマ字入力の早さの秘密について、会場の皆さんに聞いてみましょう。
そうなんです。かな入力の場合は、あかさたな、はまやらは、で、しめて50文字分の50箇所のキーの位置を覚えなくてはなりませんが、ローマ字なら26文字ですから26箇所で済みます。なんたって、26字は50のほぼ半分です。 つまり、ローマ字入力とは何が早いのかというと、キーの位置を覚えるのが早いのです。これが、「ローマ字入力は早い」の意味です。 と、ここまで聞いて、半分で済むならやっぱり早いと思うでしょう。そうですね。全くそのとおりです。実際、早く覚えることが出来ます。が、ここに、ものすごーい落とし穴があります。 たとえば坂戸なら、ローマ字入力なら「SAKADO」と押して「さかど」となります。かな入力では「さかど」と押して「さかど」です。押す数が半分です。 26文字の位置を早く覚えて一生2倍のキーを押すか、50文字の場所を何とか覚えたら後はハッピーにローマ字入力の半分で済ませるか。さあ、悩んでくださいませ。何といっても一生の問題です。 参考までに、ローマ字入力で用いるキーボードのキー配列はキーが並んでいる順序からqwerty配列(クエーティ配列)と言いますが、これは、ローマ字は一日にしてならず、でありまして、1880年代からの由緒あるものなんです。 でも、由緒はあってもそれだけの話。これは速く入力できることを考えて定められたものではありません。昔のアメリカ映画では、社長秘書か何かが英文タイプライターでカシャカシャカシャカシャ、ガチャン、チーンと猛烈なスピードでタイプしている音がよく聞こえてきます。 ところが、その当時のタイプライターは、あまり速く入力すると中が絡まってしまうものだったので、入力のプロフェッショナルの秘書さんたちでも素速く入力できないようなキー配列に、わざわざしてあったんだそうです。 もう一度言います。ローマ字入力のキーボードのキー配列は英語を入力しやすく考えて作ってあるものではありません。入力しにくいように作ってあるんです。まして日本語のローマ字入力です。 ワープロが普及し出したのは1980年代ですが、その遥か100年前の1880年代とは、憲法というものを制定しなくちゃ国際社会ではやっていけないらしいゾと伊藤博文がヨーロッパに視察に行った、そんな時代です。日本自体が国際社会にデビューしたばかりのそんな時代に、日本語をローマ字入力することなんて夢にだって出てきません。その120年ほど前の規格が今でも使われているんですね。もっと速く楽に打てるキー配列やキーボードがいくつも提案されていますが、みんなが使っているとか、どこにでもあるということで、結局これが全世界的に未だに使われています。慣れというのは恐ろしいものです。 では、かな入力のキーボードはどうでしょう。一応これは日本語を入力することを考えてキーを配列してあるもので、日本工業規格(JIS規格)で定められています。どこの会社のパソコンを買ってもJIS企画のキーボードなら配列は同じです。 日本語の入力ということで考えるなら、英語を入力しにくく作ってあるキーボードでローマ字入力をする、アルファベットならぬアクロバット作業よりはまだマシということがお分かりかと思います。 そして、その後の研究でもっと日本語入力に適した配列が定められ、新JIS規格キーボードの付いたワープロやパソコンとして発売されましたが、こちらのほうも慣れというものは恐ろしいもので、普及しないうちに何時しか消えてしまいました。 新JIS規格キーボード以外にも、入力しやすい配列を取り入れたキーボードのパソコンは今でもあります。入力しやすいということは覚えやすいということですから、機会があったら試してみるのも良いかもしれません(但し、その機種でしか使えません)。 まあ、かな入力を選ぶにしてもローマ字入力を選ぶにしても、使用するキーボードの配列はそれなりのものでしかありませんから、後は使う人の入力方式との相性です。決めたからには一生そのまま、なんてことはなく、途中で変えてもいいわけです。 但し、ローマ字入力を選ぶ場合には前提があります。頭の中にローマ字の規則が入っていることが前提なんです。 例えば、
ローマ字入力を選ぶのは構いませんが、こういった言葉を「入力してください」と言われて、えーっと、、、と悩んでしまうようなら、今回の体験講座では、かな入力にしておいたほうが無難でしょう。かな入力と結婚したんなら別ですが、そうじゃないんですから一生添い遂げなくてはいけない、なんてことは無いんです。パソコンを操作することに慣れてきてから、落ち着いてじっくりローマ字に入力にチャレンジしても遅くはありません。 でも、「メールの宛て先にはアルファベットが必要だし、ホームページをみるときにも必要だからローマ字入力を」と勧められ、いずれは覚えなくてはならないものなら最初から…と迷う人も多いんじゃないかと思います。かな入力か、ローマ字入力か、「究極の選択」ですね。 ということで、 これから始めるなら・・・窮余の一策な選択別名、慣れるまでは何とか、してもらう方式。 ホームページのアドレスなんて、実はほとんど入力する必要がありません。確かに、インターネットというものが始まったころには、行きたいところにたどり着くには自分でアドレスを入力しなくてはいけませんでした。でも、今では大概のところは日本語のままたどっていけます。これからの講座で紹介することですが、メールの中にホームページアドレスを埋め込んでもらえば、それを選ぶだけでホームページに行くこともできます。 メールにしても、最初から全てを自力でやりたいのならメールの宛先のところにアルファベットで入力するところから始めなければなりませんが、もらったメールに返事を出すだけなら日本語だけで大丈夫です。 皆様は、まだパソコン初心者ですよね。その皆様にメールをよこそうとする人なら、少なくとも皆様に比べればメールのベテランです。ベテランさんに最初のメールを送ってもらうのです。そして、皆様は届いたメールに対して返信を選べば、それでもうメールの宛先は入りますから、後は日本語で中身を書くことに専念できます。 ま、メールの宛先なんて、入力する全体に比べれば最初のところだけですので、1文字1文字、ポツポツとたどりながらでもいいわけです。楽な方法で始めましょう。 人は、楽しいから覚えるのです。楽しいから何時の間にか覚えているのです。何時かは楽しめるハズだからと最初から苦労していたら、覚える前にイヤになります。 ローマ字入力を選びたい方はそれでも構いません。好き好きです。でも、パソコンでの入力が初めての方は、簡単なかな入力でメールする楽しさを味わってから、ローマ字入力に挑戦することをオススメします。 オマケとして、文字の種類文字にもいろいろあります。
このあたりについては、実際に購入したところで、サポーターさんにじっくり聞いて納得してください。また、まだ説明できるほど納得できていないサポーターさんは、ベテランのサポーターさんに聞きましょう。お互い良い勉強になるはずです。 オマケその2で日本語変換ソフトの話かな入力を選んだとしてもローマ字入力を選んだとしても、その後の話として、かなを漢字に置き換えるという作業をする日本語変換ソフトを選ぶことが必要です。これは、ワープロソフトの中に仕込まれておりまして、有名どころとしては、Wordや一太郎といったワープロソフト名を聞いたことがあるかもれません。 このWordシリーズに入っているのが MSIME(エムエスアイエムイー)であり、一太郎シリーズに入っているのが ATOK (エイトック)です。それぞれ使い勝手が違いますので、複数のものにチャレンジすると、頭の中が混乱します。パソコンに慣れるまでは、ひとつに絞って覚えたほうが良いでしょう。 では、選ぶんならどちらを選んだほうが良いのでしょうか。どちらを選ぶにしても、たぶんどちらもそれなりに正解だとは思います。ただ、私がアドバイスするとしたら、“身近なサポーター”になる方に合わせておくのが無難、ということです。MSIMEだけ使っている人にATOKの使い方を質問しても答えられませんし、その逆も同様です。サポーターさんに、質問に答えてもらうことだけのために、使ったことの無いものを調べさせたりするのも酷ですので。 ゑっ、これを書いている人、つまり私はWordのMSIMEか、一太郎のATOKかって? 実はどちらも使っていません。私には両方とも使いにくかったので、Windowsパソコンの前の時代から愛用してきた松茸という、今では超マイナーな日本語変換ソフトをかな入力で使い続けています。慣れというのは恐ろしいものなんです。だから、MSIMEやATOKの質問なら、他のサポーターさんに聞いてよね、というのが今回のオチだったりします(笑) |
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