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「旅に出たいな」って思ったことはありませんか?私はよく「ああ京都行きたい」とか「沖縄行ってみたいな」と思います。旅への憧れって誰の心の中にもあると思います。この物語の主人公であるビルボ・バギンズ君も決して例外ではありません。 バギンズ君は、ホビットです。ホビットとは「白雪姫」でおなじみの元気なドワーフ小人よりも一回り小さい小人で、ウサギのように山に掘ったトンネルの家でのんきに暮らしています。一日に何度も食事をしたり、長いパイプをふかして煙遊びをしたりするなど、楽しく暮らすのが大好きです。 ある日、そんなバギンズ君の家に、伝説の魔法使い、ガンダルフがやってきました。 「おまえを冒険に連れだそうと思っておる」。当然バギンズ君は断わります。昔は「機会があったら外の世界に飛び出そう」と思っていたのですが、どうやら長い間何事も無く平穏無事に暮らしていたので、住み慣れた我が家から出かけたり冒険に飛び込んだりするのが嫌になってしまったのです。しかし、断わられてもガンダルフは平気そのものです。 少し話は変わりますが、係を決める時など最初は全然やる気が無かったのに何時の間にか大役に自分から名乗り出ていることってありませんか?私の場合、よくあります。単に断わるのが下手なだけなのかもしれませんが、その場の雰囲気とかって結構関係あると思います。おだてられたりすると「じゃ、やろうかな」と思う人がたくさんいると思います。あと、「自信ないんだ」とか言われて、くやしさのあまり「やってやろうじゃん」って思う人も。 それと同じように、結局バギンズ君は魔法使いをお茶に誘ってしまいます。次の日になってびっくり。確かに魔法使いは来ました。十三人の元気なドワーフ小人を連れて…。 父は、私にこの本を三回薦めました。一回目は小学校三年の時、二回目は小学校五年の時、そして三回目が今回です。毎回その気になって読み出しはするのですが、途中で飽きてしまいます。何故かと言うと、この物語は前置きと言うか事件が起こるまでがとても長いのです。最初の事件が起こる二ページ前くらいまで読んで毎回挫折していたのですが、そのことを父に言うと「洞窟のところまで読んだの?そこからが面白いじゃん!」。…今回は最後までちゃんと読んでみて、やっと分かりました。 それにしても、どうして父がこんなに何度もこの本を薦めるのか、読んでいても最初は分かりませんでした。何故って、物語の初めのほうで、バギンズ君はドジなことばっかりしていたからです。本を読み出すと、どうも私は登場人物と一緒に行動している様な気分になってしまいます。だからバギンズ君が情けなかったりすると、読んでいる自分まで情けない気分になり、活躍し出すと私の気持ちまで跳びはねて途端にページをめくるスピードがはやくなり、面白くなると言うか楽しくなります。 この物語は、幸せになったと思った途端どん底に突き落とされる場面が何度も出てくるので読んでいてとても疲れましたが、でも、その分久しぶりに読みごたえがある本と出会うことができました。また、この本を薦めてくれた父は、以前のバギンズ君のように、とても冒険することに憧れているんだなとも思いました。 バギンズ君はこの冒険でたくさんの友人に出会います。たくさんの壁にもぶつかります。バギンズ君を見ていると何故か今の自分を見ている様な気がしてなりません。高校に入学したら私もたくさんの友人に出会うと思いますし、多くの壁が立ちはだかってくると思います。 バギンズ君も、ガンダルフの企てにのせられて冒険の旅に出なければ危険な思いをすることがなかったかもしれませんが、本当の友との出会いもなかったでしょう。前に進むからこそ壁にも突き当たるけれど、そこには新たな出会いや発見もあるのです。それが「冒険」なんだということをこの本は教えてくれました。 何年か経ってバギンズ君は自分の冒険の記録を書き記します。そして、こんなタイトルをつけます。 『ゆきて帰りし物語、あるホビットの休暇の記録』 あなたも、バギンズ君の休暇につきあってみませんか? 『ホビットの冒険』 J・R・R・トールキン(瀬田貞二訳) 岩波書店 |