坂戸パソコンボランティアでは1999年から毎年「視覚障害者のためのパソコン体験講座」に携わっているわけですが、その中で、初めてパソコンにふれる人が文字の入力方式を選ぶにあたって考慮に入れたほうが良いことを話しておいたほうがいいということになり、こんな感じにまとめたものを話しました。
これらは、私の中では“一定の結論”になってはおりますが、“最終的な結論”にまでは致っていない、私の経験という限界の中からのものですので、何かしら調べたり考えたりで違う視点を与えてくださるかたがおりましたら、何とぞ何とぞご助言をお願いします。たとえ助言といったごたいそうなものでないにしても、私はこんな風に説明しているヨといったものでも歓迎です。ご一緒に、正しく、かつ分かりやすい説明を見つけたいですね。
「パソコンやるならローマ字入力」という神話があります。実は、わたくし。何年か前、某県の某所に1ヵ月間カンヅメになって、日本国民12時間いっぺんこっきりでインフォメーションテクノロジーを享受できるようになってねパソコンバラまき「IT講習」の講師をしていたんですが、その中には当然「日本語入力」というものがあるわけです。パソコンで日本語を入力するとなると、一人ひとりが使うパソコンをローマ字入力かかな入力のどちらかに設定しなくてはいけないので、講座の最初に聞くんですね。「どちらでやりますか?」と。そーすると、かなりの人がローマ字入力を希望するんです。
なんて話の前に、そもそも入力方式って何ですか?ですね。
お堅いと言っても頭の中がコチコチというほうではなくて、物体としてのパソコンのキーボードを用いたとき、さわる部分(堅いですよ)が全部か一部か、という話(単なる前置きです)。
キーボードとは、押すと反応するキーが乗っているボード。楽器のほうのキーボード(鍵盤ですね)で、例えばスティーブン・スピルバーグ監督の映画『未知との遭遇』だとソーラーファー(オクターブ下の)ファードーと鳴ります。同じようにパソコンでは、キーを押すと「ドレミ」ならぬ「ABC」や「あいうえお」の表示となる色々いっぱいのキーが乗っています。
その乗っているキーをフルに、つまり全部用いるのか、6ヵ所のキーだけを用いるのか、の違いがありまして、フルに用いるほうを、フルキー入力。6ヵ所のキーを用いて点字を入力するほうを6点入力と言います。
そして、このフルキー入力には、ローマ字入力かかな入力があり、6点入力のほうにも、「かな」だけを入力する6点入力と「漢字」の入力も出来るように考案された6点漢字入力があります。
あ、今ここで、ローマ字入力とかな入力と言いましたが、これは「ABC」を入力するのがローマ字入力で、「あいうえお」を入力するのがかな入力という意味ではありません(分かってもらうのに一苦労の表現なんです)。
「かな」や「漢字」を入力するときに、いったんアルファベットキーを押したものが「ひらがな」として表示され、それをそのまま「ひらがな」として使う、あるいは「カタカナ」や漢字に変換して(置き換えさせて)から使うものがローマ字入力。
「かな」を押したものが直接「ひらがな」として表示され、それをそのまま「ひらがな」として使う、あるいは「カタカナ」や漢字に変換して(置き換えさせて)から)使うのがかな入力なんですが、聞いているだけで混乱するでしょう。喋っているほうもそーです (笑)。これについては、また後で説明します。
では、6点入力のほうはどうかと言いますと、「かな」だけを入力する6点入力は、これまで6点点字に馴染んできた人なら(指の置き方が逆ハの字から横1列になる方式もあるので多少の慣れは必要ですが)比較的覚えやすいと思いますので、選んでみてもいいでしょう。
それではもうひとつの6点漢字入力はと申しますと、これは6つの点を漢字コードに振り分けて漢字そのものを直接入力していく方式です。直接入力するだけあって、フルキーを用いたときの入力で必要とした変換という作業がありませんから、その分スピーディーです。間違った変換の心配もありません。
但し、これまでの盲学校の教育の中では、漢字に関する教育は十分なものではありませんでしたので、この6点漢字入力方式は、漢字に関するある程度の知識があることが前提となります。
どの入力方式を選ぶのかの第一ポイントは、以前やったことがあるもの、慣れているものがあるかどうか?です。
以前であっても慣れているものがあるのなら、そのままどうぞ。これまでパソコンで入力してきた方式があれば、取りあえずは、それを選んでおきましょう。
では、今回が初めてという場合。その場合は、フルキー入力をお奨めします。
ここで最初の質問に戻るわけです。「パソコンやるならローマ字入力」、「ローマ字入力は速い」。これって本当なんでしょうか? ローマ字入力の速さの秘密について、会場の皆さんに聞いてみましょう。
受講生のAさんはローマ入力をお選びとのことですが、何か切っ掛けがあったのでしょうか?
「最初にワープロを買ったとき、メーカーの人にすすめられて…」
AさんのサポーターであるBさんは、パソコンのベテランです。どうしてローマ字入力をすすめたんだと思いますか?
「それが当たっているかどうかは別にして、覚えるキーが少ないからではないでしょうか。」
そうなんです。かな入力の場合は、「あかさたな、はまやらは」で、しめて50文字分の50箇所のキーの位置を覚えなくてはなりませんが、ローマ字なら26文字ですから26箇所で済みます。なんたって、26字は50のほぼ半分です。
つまり、ローマ字入力とは何が速いのかというと、キーの位置を覚えるのが速いのです。これが、「ローマ字入力は速い」の意味です。
と、ここまで聞いて、半分で済むならやっぱり速いと思うでしょう。そうですね。全くそのとおりです。実際、早く覚えることが出来ます。が、ここに、ものすごーい落とし穴があります。
たとえば「さくら」なら、ローマ字入力では「SAKURA」と押して「さくら」となります。かな入力では「さくら」と押して「さくら」です。押す数が半分です。
26文字の位置を早く覚えて一生2倍のキーを押すか、50文字の場所を何とか覚えたら後はハッピーにローマ字入力の半分で済ませるか。さあ、悩んでくださいませ。何といっても一生の問題です。
参考までに、ローマ字入力で用いるキーボードのキー配列はキーが並んでいる順序からqwerty配列(クエーティ配列)と言いますが、これは“ローマ字は一日にしてならず”でありまして、1880年代からの由緒あるものなんです。
でも、由緒はあってもそれだけの話。これは速く入力できることを考えて定められたものではありません。昔のアメリカ映画では、社長秘書か何かが英文タイプライターでカシャカシャカシャカシャ、ガチャン、チーンと猛烈なスピードでタイプしている音がよく聞こえてきます。
ところが、その当時のタイプライターは、あまり速く入力すると中が絡まってしまうものだったので、入力のプロフェッショナルの秘書さんたちでも素速く入力できないようなキー配列にワザワザしたという説があるくらいです。
もう一度言います。ローマ字入力のキーボードのキー配列は英語を入力しやすく考えて作ってあるものではありません。入力しにくいように作ったものの成れの果てです(とまで断言しては言い過ぎなので、アッサリ撤回しますが (笑))、チャレンジしようとしているのは、日本語のローマ字入力です。
ワープロが普及し出したのは1980年代ですが、その遥か100年前の1880年代とは、憲法というものを制定しなくちゃ国際社会ではやっていけないらしいゾと伊藤博文がヨーロッパに視察に行った、そんな時代です。日本自体が国際社会にデビューしたばかりのそんな時代に、日本語をローマ字入力することなんて夢にだって出てきません。その120年ほど前の規格が今でも使われているんですね。もっと速く楽に打てるキー配列やキーボードがいくつも提案されていますが、みんなが使っているとか、どこにでもあるということで、結局これが全世界的に未だに使われています。慣れというのは恐ろしいものです。
では、かな入力のキーボードはどうでしょう。一応これは日本語を入力することを考えてキーを配列してあるもので、日本工業規格(JIS規格)で定められています。どこの会社のパソコンを買ってもJIS規格のキーボードなら配列は同じです。
日本語の入力ということで考えるなら、英語を入力しにくく作ってある(らしい)キーボードでローマ字入力をする、アルファベットならぬアクロバット作業よりはまだマシということがお分かりかと思います。
そして、その後の研究でもっと日本語入力に適した配列が定められ、新JIS規格キーボードの付いたワープロやパソコンとして発売されましたが、こちらのほうも慣れというものは恐ろしいもので、普及しないうちに何時しか消えてしまいました。
新JIS規格キーボード以外にも、入力しやすい配列を取り入れたキーボードのパソコンは今でもあります。入力しやすいということは覚えやすいということですから、機会があったら試してみるのも良いかもしれません(但し、その機種でしか使えません)。
まあ、かな入力を選ぶにしてもローマ字入力を選ぶにしても、使用するキーボードの配列はそれなりのものでしかありませんから、後は使う人の入力方式との相性です。決めたからには一生そのまま、なんてことはなく、途中で変えてもいいわけです。
但し、ローマ字入力を選ぶ場合には前提があります。頭の中にローマ字の規則が入っていることが前提です。
例えば、本日の講座には「りゅうこ」さんが参加しています。ローマ字で「りゅうこ」と書いてくださいと言われて、皆様「RYUUKO」が浮びましたか?
踊りおーどるなーらぁアの「東京音頭」。頭の中にパッと「TOUKYOU」が出てきましたか?
今度の「坂戸市民まつり」のメイン会場は「坂戸小学校」。小学校をローマ字ではどう書くでしょう?
Cさんが住んでいた「南町」はどうでしょう?
そのほか、「インターネット」、「汽車ポッポ」、「修学旅行」、「ガッチャマン」などなどなど。
ローマ字入力を選ぶのは構いませんが、こういった言葉を「入力してください」と言われて、「えーっと…」と悩んでしまうようなら、今回の体験講座では、かな入力にしておいたほうが無難でしょう。かな入力と結婚したんなら別ですが、そうじゃないんですから一生添い遂げなくてはいけない、なんてことは無いんです。パソコンを操作することに慣れてきてから、落ち着いてじっくりローマ字に入力にチャレンジしても遅くはありません。
でも、「メールの宛て先にはアルファベットが必要だし、ホームページをみるときにも必要だからローマ字入力を」と勧められ、いずれは覚えなくてはならないものなら最初から…と迷う人も多いんじゃないかと思います。かな入力か、ローマ字入力か、「究極の選択」ですね。
ということで、これから始めるなら!
別名、「慣れるまでは何とか…してもらう」方式。
ホームページのアドレスなんて、実はほとんど入力する必要がありません。確かに、インターネットというものが始まったころには、行きたいところにたどり着くには自分でアドレスを入力しなくてはいけませんでした。でも、今では大概のところは日本語のままたどっていけます。これからの講座で紹介することですが、メールの中にホームページアドレスを埋め込んでもらえば、それを選ぶだけでホームページに行くことができます。
メールにしても、最初から全てを自力でやりたいならメールの宛先のところにアルファベットで入力するところから始めなければなりませんが、もらったメールに返事を出すだけなら日本語だけで大丈夫です。
皆様は、まだパソコン初心者ですよね。その皆様にメールをよこそうとする人なら、少なくとも皆様に比べればメールのベテランです。ベテランさんに最初のメールを送ってもらうのです。メールが届いたら「返信」を選ぶだけで自動的に宛先の入った状態になっていますから、後は日本語で中身を書くことに専念できます。
ま、メールの宛先なんて、入力する全体に比べれば最初のところだけですので、1文字1文字、ポツポツとたどりながらでもいいわけです。楽な方法で始めましょう。
人は、楽しいから覚えるのです。楽しいから何時の間にか覚えているのです。何時かは楽しめるハズだからと最初から苦労していたら、覚える前にイヤになります。
ローマ字入力を選びたい人はそれでも構いません。好き好きです。でも、パソコンでの入力が初めての人は、簡単なかな入力でメールする楽しさを味わってから、ローマ字入力に挑戦することをオススメします。
文字にも色々あります。文字といっても、日本語に朝鮮語、中国語にベトナム語、タガログ語にウズベク語、シンハラ語にスワヒリ語といった言語の話ではなくて、全角文字と半角文字のことです。
ちょっと分かりにくい話ですが、パソコンに表示される文字には全角文字と半角文字というのがあるのです。
ワープロはともかくパソコンでは「ひらがな」は全角文字だけですが、「カタカナ」や「アルファベット」、数字や記号には、半角文字というのがあるんですね。
この半角文字と全角文字では、使うべき場面が違いますし、場合によると落とし穴もあります。メールが送信できないと言うので確かめてみたら、メールアドレスが全角で入力されていた、とかいうヤツです。
このあたりについては、実際に購入したところで、サポーターさんにじっくり聞いて納得してください。また、まだ説明できるほど納得できていないサポーターさんは、ベテランのサポーターさんに聞きましょう。お互い良い勉強になるはずです。
かな入力を選んだとしてもローマ字入力を選んだとしても、その後の話として、入力したかなを漢字に置き換える日本語変換ソフトを選ばなくてはなりません。ワープロソフトの有名どころである「Word」や「一太郎」の名前を聞いたことがあるかもしれませんが、このWordシリーズに入っている(以前に、パソコンを買うと入っている)のが「MSIME(エムエスアイエムイー)」であり、一太郎シリーズに入っているのが「ATOK(エイトック)」です。それぞれ使い勝手が違いますので、複数のものにチャレンジすると、頭の中が混乱します。パソコンに慣れるまでは、ひとつに絞って覚えたほうが良いでしょう。
では、選ぶんならどちらを選んだほうが良いのでしょうか。どちらを選ぶにしても、たぶんどちらもそれなりに正解だとは思います。ただ、私がアドバイスするとしたら、“身近なサポーターさん”に合わせておいたほうが無難、ということです。MSIMEだけ使っている人にATOKの使い方を質問しても答えられませんし、その逆も同様です。サポーターさんに、質問に答えてもらうことだけのために、使ったことの無いものを調べさせたりするのも酷ですので。
ゑっ、これを書いている人、つまり私はWordのMSIMEか、一太郎のATOKかって?
実はどちらも使っていません。私には両方とも使いにくかったので、Windowsパソコンの前の時代から愛用してきた松茸という、今では超マイナーな(いや、ずっと前から超マイナーな (笑))日本語変換ソフトを「かな入力」で使い続けています。慣れというのは恐ろしいものなんです。だから、MSIMEやATOKの質問なら、他のサポーターさんに聞いてよね、というのが今回のオチだったりします (笑)