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肢体障害者の理解のために


1 障害と障害者

(1)障害を持つ人

一口に「障害者」と言ってもいろいろな人がいます。障害の種類や程度が多様であるというだけでなく、障害をもたない人と同じように、実に個性的です。

ところが、普段障害者と接する機会がないと、はじめは障害者の“障害の部分”ばかりに目を奪われがちです。

国際レベルでの障害者の表し方は「障害を持つ人」(person with disability)です。これは、「障害者もいろいろな面で能力を持っていること、障害はそれを持つ人の属性のひとつに過ぎない」という認識から「ひと」が強調されるようになったからです。

もちろん、障害をもったことが人格を形成する上で大きな影響を及ぼすこともあるでしょう。しかし、同じ障害をもったとしてもその受けとめ方、対応の方法は人それぞれです。従って、形成される人格も多様です。当たり前ですが、一人ひとりがみんな違って、「障害者」とひとくくりにして論じることはできません。

(2)障害とは

一口に障害といっても、さまざまな障害の種類があります。一般的には、視覚障害、聴覚障害、肢体障害(肢体不自由)というように、障害を受けた身体的部位で呼ばれています。しかし、精神障害・内部障害など身体的障害が一見しては認められない障害もあります。

また障害の程度も多様です。視覚障害者であっても、全盲の人もいれば弱視の人もいます。さらに、弱視の人といっても見え方は人それぞれ違います。その他の障害についても同じことがいえます。

ところで、近視の人は少なくありません。これも一種の「視覚障害」ということができます。しかし、眼鏡やコンタクトレンズを使用すれば日常生活にはなんら支障はありません。したがって「障害者」と呼ばれることはありません。「障害=故障を持つこと」ではないということです。

障害は「故障」だけでなく、それによる「不自由さ」によって決まってきます。従って、「故障」の程度は同じでも医療やリハビリテーション(自助具や補助具の使用を含む)などによって「不自由さ」は変わります。さらに教育によっても「不自由さ」は変わってきます。また、社会のありよう(施設・設備、社会的評価など)にも大きく規定されます。

法律や行政で障害を定義することは、それに対応する施策や対策、サービスの提供範囲を定めることを意味します。従って、障害の定義は、相互に関連を持ちながらも、医療、福祉、労働、教育など各分野によって変わってきます。

2 肢体障害(肢体不自由)とは

(1)肢体障害の分類

肢体不自由(肢体障害)とは様々な原因によって主に手足や体幹が永続的に不自由な状態をいいます。また、一度運動を学習した後に障害を受けた場合(障害の影響が出る場合)と未だに学習していない場合とに大雑把に分類することができます。前者は「代替」装置を用意することが比較的容易ですが、後者はそれだけでは解決できない色々な難しさがあります。

障害には、事故や病気などによる中途傷害、欠損や脳性マヒなど先天的な傷害、進行性の傷害などがあります。

(2)脳性マヒ(CP)

脳性マヒ(CP:Cerebrel Palsy)は脳の損傷による運動面の障害と考えると分かりやすいでしょう。脳は、外界の刺激が伝わると、それを統合・調整し、それに応じた運動の命令を出します。その命令に応じて筋が動くことで運動が実行されます。

脳の損傷による症状は、運動、知的能力、てんかん、行動面など多岐にわたりますが、脳性マヒは、特に運動面で障害のあるものに対して使われます。

機能訓練などで手足を曲げ伸ばしするとき固く抵抗を感じる痙直型、自分で手足を動かそうとすると意図しない運動を伴う不随意運動(アテトーゼ)型などがありますが、一般的には両方を合わせた混合型のタイプが多く、また、年齢が上がるにつれて状態が変わっていくこともあります。障害の部位などにより、片マヒ、両マヒ、四肢マヒ(最も重度の病型)、不随意運動型、失調型といった病型に分けられます。

脳性マヒの人に良かれと思って「頑張れ!」と励ますことで、かえって緊張が増してうまくいかなくなるということもありますので、言葉かけでは注意が必要です。

(3)進行性の障害

進行性の傷害には、筋ジストロフィーや筋萎縮性側索硬化症(ALS)などがあります。進行性筋ジストロフィー症には色々なタイプがありますが、最も多いのはドゥシャンヌ型では手足の体に近い部分の筋から徐々に収縮が始まり、腹筋などの体幹を支える筋が衰え、歩行が不安定になり立ち上がることも困難になります。徐々に筋が萎縮するので、関節が動かなくなることや変形の予防や筋力の低下を防ぐための訓練が重要です。また、身体の衰えに悲観的になりやすい精神面を支える配慮も必要です。

筋ジストロフィー患者やALS患者といった進行性の障害を伴っている人へのサポートは、単独でのサポートではなく、患者さんを医療面からサポートしている方々との連携の中で行ないましょう。

但し、進行性の障害を伴っている人へのサポートは、色々な面での(かなりデリケートな)配慮を必要とします。サポートする側への精神的ケアが必要になる事態も予想されるサポートだということを踏まえ、サポートに携わる前に、どういった病気であり何が起こり得るかをキチンと学ぶことが必要です。

(4)サポートに伴う注意点や配慮事項

障害とは、骨折などで一時的に不自由な状態にあるのとは違い、長期的に不自由な状態が継続します。しかし、その状態像は決して固定的ではありません。障害の進行や学習による成果(リハビリテーション)によって変化していきます。

従って、肢体障害者をサポートするときには、現在どのような動きができるのか(どのような部位が、どの程度動かせるのか)という状態把握は重要なことですが、さらに今後学習すればできそうなことは何なのかを見極めることが必要です。

特に、進行性の障害の場合、その障害の進行の具合はどうか(将来的な見通しのもとに)も重要な要因になります。

(5)二次障害を防ぐ

二次障害とは、障害そのものではないが、障害があることで派生する身体的故障のことをいいます。本人は案外気づきにくいものです。まわりの人が気を配りたいものです。

自分で崩れた姿勢が立て直せない場合には、同じ姿勢や動きを長時間続けることで褥創になってしまったり、身体の変形が進んだりする危険性があります。また、脳性マヒなど筋緊張に異常がある場合には同じ動作の繰り返しが筋緊張を高め身体の変形を進める要因になります。

以下、パソコンを例にして説明しますと、頭を支えながら操作できるようにモニタの位置を工夫したり、肘や手のひらをついてキーボードが打てるようにキーガードやパッドを工夫することで改善できることがあります。機器に人を合わせるのではなく、人に機器を合わせる発想で考えていきましょう。必要に応じて専門家(PT:理学療法士、OT:作業療法士など)のアドバイスを受ける必要があります。

普段から筋緊張の強い人は肩凝りなどに気づきにくいものです。キーボードやマウスの操作は思った以上に肩や首の筋肉が凝ったりします。専門的なアドバイスはできなくても、二次障害を引き起こさないために疲れる前に休むことを心がけるように助言しましょう。パソコン画面まで焦点距離が一定なので目が疲れやすいこと。時間を決めて目も休ませるように助言しましょう。

(6)障害者のねがいはなんなのか

「パソコンが使いたい」「パソコンのことを教えて欲しい」ということでサポートの依頼があるわけですが、ほとんどの人は「パソコンを使って何かがしたい」と思っているのではないでしょうか。パソコンも「道具」ですからそう考えるのは当然です。その何かを本人が自覚している場合もあるでしょうし、自覚していない場合もあるでしょう。場合によってはサポートを続けていくうちに要求が広がって、それまで携わってきたサポーターの手に余ることがあるかもしれません。

とりあえず「何がしたいのか」、本人の話をよく聞きましょう。パソコンやインターネットについてよくわからないため、過度の期待を抱いていることが少なくありません。パソコンを使うことの限界やデメリットなどの情報も伝えることが必要です。パソコンでなくても実現できるならパソコンにこだわる必要はありません。

現在のサポーターの手に余るようになったときには、サポーターの仲間や行政機関、福祉や医療関係の機関、他のサポート組織などとも連携していきましょう。本人を含めて「生活の質」をキーワードに一緒に考えていきましょう。

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