「障害者」というジャンルでもって、障害があること(障害のある人)をひと括りにできるものでしょうか。それぞれの障害で違いますし、それぞれの障害が障害者それぞれの中で違います。障害者それぞれも違います。障害を自分の知識の中で固定的に捉えないことが必要です。
「目の不自由な人」という、とても不自由な言い方がありますが、実際には「目の不自由な人」とひと括りに出来るものではなく、「目の不自由な人」の中には、目の見えない人もいれば見えにくい人(弱視の人)もいます。生まれたときからそうだった人もいれば、途中からそうなった中途障害の人もいます。その人の状況によって説明の方法に工夫が必要かもしれませんし、対応するソフトも違いますので、具体的につかんでおくことが必要です。
弱視の人がパソコンを使う場合は画面の設定を変えたり画面拡大ソフトを用いることで何とかなるかもしれませんが、目の見えない人がパソコンを使う場合は、PC-TalkerやXPリーダーといった音声読み上げソフトを用いて画面の情報を読み上げさせています。すなわち、バソボラ先のパソコンのCRT(ディスプレー)がキチンと機能しているとは限らないということです。
Windows以前の時代には、「パソコンボランティア」に出掛けた先にCRTが無かったというケースをよく聞いたものです。だったら、その音声合成装置なりソフトに喋らせればいいと思うでしょうが、慣れないと、とてもじゃないですが理解できないのが音声合成の声です(しかも、けっこう早口)。よくもまあ、これで内容がわかるものだと、視覚に障害のある人の適応力に感心させられます。「パソコンボランティア」に行く前に、念のためCRTの有無を確認しなくてはいけませんし、無ければ持参しなくてはいけません。
ちなみに、画面に表示される情報を音声読み上げソフトによって把握している人の場合、画面でのマウスカーソルの位置関係を視覚的に知ってパソコンを操作しているわけではありませんので、マウスを持っていない人も少なくありません。サポートに行った先でマウスが無いとお手上げ、なんてことがないように、常日頃からキーボードでのパソコン操作に慣れておくか、さもなければサポートに出動するときにはマウスの持参が必要です。
説明に際しては、指示代名詞では相手に伝わらないことを肝に銘じることが必要です。ソレとかコレとか、カーソルの右とか言っても、相手には見えていないのですから、普段の会話の延長でついそう言ってしまったときには自分の中で冷や汗ものです。
また、すぐ隣で立ち会っていても相手には見えていないのですから、自分が今何をしているのかを説明しながら作業することが必要です。でも、のべつ間もなく喋っているのも大変ですから、やはりサポートには、複数で行くのがいいでしょう。
それから、サポートに際して動かしたもの(設定を変えたもの)は、キチンと元の場所に(元の状態に)戻しておくようにしましょう。目による把握が困難なだけに、必要なものがどこにあるかを(身体で)記憶し用いているからです。
同様に、パソコンの購入や設定をサポートしたときには、保証書やマニュアル、付属のCD-ROMなどが付いてきたことを知らせ、それらを何処に保管すべきかの相談にものりましょう。そうしないと、いざ必要になったとき、見つからない!以前に、保存したかどうかすらわからなくて、次に出向いたパソボラさんがお手上げになってしまいます。
なお、現在の盲学校の教育では全盲者への漢字の指導がありませんので、視覚障害者に文字入力の説明する場合、相手の人が漢字の知識をもっていないかもしれないことを覚えておきましょう。
その場合、全部の文字をひらがなで入力することになるわけですが、特にメールの場合など、改行などで区切ってもらわないと、目で読んでいる人には読みにくいものとなってしまうことなども伝えておきましょう。
会話によるスムーズな対話が成立しにくいことを留意しましょう。口話を身につけている人は話す人の口元から読み取ろうとしますので、ゆっくりと、簡潔に、を心掛けましょう。
手話を用いての会話が出来る依頼者なら手話通訳者と一緒にサポートしたいものですが、聴覚障害者の全てが手話ができるわけではありません(10年ほど前まで聾学校では手話の使用が禁止されておりました)。その場合は筆談ということになりますが、紙とペンではなく、その場にあるパソコンを用いると会話がそのまま使い方のメモになるので便利です。依頼者にとってもメモになるのに加えて、担当した人にとっても報告の下書きとなりますね。
ただ、そのパソコンを用いて作業を開始しているときには会話用には使えませんので、そういうときにはノートパソコンを持参するなどの工夫が必要です。
但し、この「パソコン要約筆記」は、どちらかというと中途失聴者に向いている方法だということを覚えておいてください。人間は赤ちゃんとして誕生するわけですが、言葉の獲得期に音声情報が入ってこないと、日本語を一定の連なりの中で理解することが困難となります。文字として示せば伝わるハズだ!とか、字が見えるんだから自分でパソコンの本を読めばいい!パソボラがサポートする必要は無い!などとは思わないで、丁寧に丁寧に、ゆっくりすぎるほどゆっくりと伝える配慮が必要です。
Windows になってからは「ユーザー補助」(ご存知ですか。XPまでは「コントロールパネル」の中にある「車いすアイコン」、Vistaからは「コンピュータの簡単操作 センター」をクリックするから設定できます)が標準装備になったので、複数のキーを用いた入力や操作、指の震えなどには対応できるようになりましたが、障害によってはマウス操作そのものが困難なことがあります。マウス操作をボタン化した「らくらくマウス」といった操作補助装置での対応も考えてみましょう。パソコン本体と補助装置の仲立ちをする「できマウス。」や「できマウス。の仲間たちのソフト」も、かなりのお薦めです。
但し、「らくらくマウス」といった操作補助装置は製品ですので購入するには一定の金額が必要です。手元のパソコンのマウスが使いにくそうだからと即!購入に走るのではなくて、マウスの設定を変えるだけでも使い勝手は良くなります。ノートパソコンに備わっているタッチパッドも、試してみる価値が十分にあります。
まず、パソコンに備わっている機能での対応を試してみましょう。それを試すことで、操作補助装置を購入するにしても、どのような機能が備わっているものが必要なのかが見えてきます。
それから、キーボードの上にキーガードが付いているだけでもキーボード操作が断然違いますし、人によってはキーボードからの入力ではなくソフトキーボード(画面上のキーボード)から文字を選んで入力する方法がいいかもしれません。
手を動かすことのできる範囲が狭い人には、小型キーボードを用いることも有効です。手や指が自由に動いたとしてもフルキーボードでのキー配列を覚えるのが難しい人には、小型キーボードに備わっている50音配列などを利用してみるのもいいかもしれません。
日本語入力(パソコン操作)支援ソフトのPeteを用いると、入力しようとしている言葉を予測し表示してくれますので、入力文字数を減らすことができます。喋り方との相性はありますが音声入力ソフトも使えるレベルに達してきました。
なお、メーカーによって、また同一メーカーであっても、機種によってそのままでは使えないものがありますので、特に購入の必要なものの場合には、十分な確認が必要です。
脳性麻痺などで「手足の不自由な人」の場合、スムーズな会話が難しいことがあります。こちらからの言葉はキチンと聞こえているのですが、その人からの言葉が伝わり難いのです。何度聞き直しても理解できないこともありますし、最初は聞き取れていた言葉がだんだん聞き取り難くなるというのもよくあります。
そういった場合には、聞き取れないフレーズを何度も繰り返してもらうのではなく、内容としては同じことを、違う言い回しで表現してもらいましょう。「CRT」が伝わってこなくても「ディスプレイ」や「画面」や「テレビ」と言い換えてもらえば、推測しやすくなります。
状況にもよりますが、50音表を用意しておいて、そこから言葉を選んでもらうことも、確実なコミュニケーション手段となります。いずれにしても(特別視せず)当たり前のこととして、落ち着いて、よく聞くことです。
と、障害に応じた配慮を紹介してみましたが、これらに加えて、それ以外の配慮も必要です(それ以前の配慮かもしれません)。そうですね。皆様がお年を召した人と応対するときに心掛けることがあると思いますが、そういったときのエチケットが当てはまると思います。いつまでも元気でいるにこしたことはないですが、人間、概ねいつかはガタがきます。年齢が高まるにつれ、小さいものや近くのものが見えにくくなり、耳の聞こえが悪くなり、手や指が思うように動かなくなり。
つまり、障害のある人に対しての「パソコンボランティア」は、同時にお年を召した人に対する「パソコンボランティア」の備えにもなるということです。老人問題とは、実は、障害者問題でもあるのです(と考えると、それぞれのケースから学べます)。
これは、相手が理解していることを確認してから話を先に進めるように!ということです。理解を示す相槌ではなく、話を聞いている合図としてうなずいてしまうのは、障害があろうがあるまいが、よくあることです。
ですから、特に、依頼者に何かしらの選択をしてもらう場合には、相手の中に言葉が届いているのか、話の内容が伝わっているのかを確認してください。その上で、必要であれば決断をしてもらってください。依頼者が言葉を発することが難しい人だったりすると、ついつい「○○でしょ!」と話を進めたくなるのは分かりますが、依頼者が自分の中から結論を見いだす前に回答を誘導してしまわないよう、くれぐれもお気をつけください。
話をすること自体にも飢えている場合があります。もしかしたら、その日は「パソコンボランティア」に至らないかもしれませんが、それだってパソコンを通じたボランティアです。聞き上手はパソボラ上手です。
但し、話している相手が問題を把握しているとは限りません。分かっていないからこそ相談しているのです。何が問題なのかを的確に指摘できるくらいなら、相談しませんよね。でも、喋る中から分かってくることってありますものね。
いろいろ知っていると、ついつい多めの説明に走りがちですなのは、私の説明を聞いていると、よーく分かると思います (笑)。赤ちゃんには消化の良いものを少しずつ口に入れ、飲み込んだのを確かめてから次を入れてあげると思います。ご機嫌さんかどうか様子を見ながら食べさせますよね。それと同じです。
うまくいったけど二度とゴメンだ!ではお互いに困ります。「パソコンボランティア」は、1回きりのものではなく、繰り返してのフォローが大切です。
自分では分からない、対処できないからこそ「パソコンボランティア」を依頼しているのですが、簡単なことが原因だった!なんてコトはよくあることです。
時間を工面してやっと出向いたら、コードが抜けていただけだった!といったケースがあります。これはユーザーサポートの一例としてよく聞く話で、障害があろうが無かろうが、誰でもやってしまうことです。そして、そんな簡単なことであっても、見えない人にとっては気付きようがないことなのです。
言ったほうとしてはそんなつもりのない軽口であっても、言われたほうにはグッサリだということは、これまた障害があろうが無かろうが同じです。何かを言いたくなる気持ちは分かりますので、そんなときには「良い勉強をさせてもらいました」と言いましょう。次からは、サポートの要請を受けた段階でコードの確認をしてもらうということを学ばせてもらったわけですから。
“説明した”イコール“分かった”(だろう)と、勝手に決め付けない(早飲み込みしない)こと。これは、今回のような養成講座でも言えますね。畳み掛けるような説明で相手を圧倒していないかどうかの注意が必要です。
よく「習うより慣れろ」と言いますが、パソコンは習った上で「慣れる」ものです。パソボラでも一緒です。出来るだけ実際に操作してもらい、「パソコンボランティア」が帰った後の自分にも使えるという安心感を残して帰るようにしましょう。不安があると、分かっていたハズのことでも自信が無くなってしまうものなのです。